「ミクロサイクル」 -自分が監督としてスペインのリーグ戦で1週間をどの様にプランニングしているか-

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こんにちは

今回は自分が監督としてバルセロナのリーグ戦でどの様に1週間をプランニングしているかについて書いてみます。
 
メソッドについて書くのは初めての割にはかなりのボリュームです。
スペインで3チーム監督として持った上で試行錯誤しながら出来た(今尚進行中)トレーニングメソッドの「プランニング」の一部分です。
 
サッカーに関してはやや完璧主義なので、自分の納得した仕事をするために必要な手間を掛けるには、時間が掛かりすぎて終わらなくなってしまうので、メソッド化をして効率を上げています。
メソッド化をしている人はみんな好きだからしているというよりは、自分の様なタイプ、又はそうせざるを得ない環境に置かれてる人が多いんじゃないかなと思っています。
 
少し前に日本で出版された話題の2冊の本(日本に帰った際に読もうと思っています)のおかげでミクロ、メソ、マクロサイクルの事はご存知の方もいるのではないでしょうか。
もし自分が、サッカー指導者として成長するには何をすればいいですか?と聞かれたら
「取り敢えずミクロサイクルを毎週本気でプランニング」すること。と答えます。
自分のミクロサイクルの定義 : 試合から試合(基本的には1週間)※
 
個人的にはそれくらい重要だと考えています。
当然メソサイクル、マクロサイクルもしっかり計画しなければ、ミクロサイクルが部分最適になってしまうので、重要じゃないというわけではないです。
ただ基本的にシーズンはミクロサイクルとの格闘で、1週間1週間その時のベストを見つける為に、微調整と適応の繰り返しだと思ってます。
なぜなら沢山の要素(結果、チームの成長度、人間関係の問題etc...)に影響を受けるので、1ヶ月のプランを細かく詳細に立てても、上手くいかないのが相場です。
 
ということで今回はそんなシーズンの鍵となるミクロサイクルのプランニングにフォーカスしていきます。
 
ちなみに自分がミクロ、メソ、マクロとの向き合い方で大切にしているのは、
「メソサイクルを頭の片隅に入れながらミクロサイクルを毎週本気で突き詰める」
 
 
 
一応ここに自分が1シーズンでどの様にピリオドを分けているか書いておきます。
ミクロの定義が分かればこの記事は読めるので飛ばしても構いません。
自分の定義(分け方)なので、教科書(一般的な認識)とは少し違います。
シーズンを4つの単位で分けています。
 
シーズン
言葉通り1シーズンこれが一番大きな単位です。
プレシーズンも含まれるので、だいたい9月から6月の9ヶ月間です
 
マクロ
ほぼ半シーズンがマクロ。
スペインは年末年始に2,3週間の休みがあるので、シーズン開始から冬休みの9月~12月末までと、再開後の新年からシーズン終了の1月~6月までの2つに分かれます。
ここに関してはあまり強く意識しなくても、マクロの段階では目標が抽象的なので1度しっかり計画したら時々思い出す程度で問題ないと思っています
(いろんな要素をしっかり考慮した上で抽象的な目標を立てることは必要)
数ヶ月単位の予定を事細かく決めても予定通り行かないので(これは日常生活でも、普通の仕事でも同じですよね)
 
メソ
期間は少し流動的。
試合のカレンダーによります
基本的に2週間~1か月
例:
・2-3-1の相手と3連戦の3週間
・上位陣との試合が多くあるこの5週間
・格下との3連戦の3週間
 
ミクロ
1週間
厳密に言うと試合から試合
試合が無い週もあるので2~3週間の場合も時々ある
 
 
 
 
 
 自分の指導環境(前提条件) 
前提条件となる環境を簡単にお話します。
 
カタルーニャ州リーグ戦のフォーマット
リーグ戦についてですが、カタルーニャ州ではカテゴリーやディビジョンによって多少の差はあります。
育成年代(5〜19歳)は8月から9月まで1カ月間プレシーズンがあり、9月からリーグ戦が始まり、5月いっぱいで終了。
 
1リーグ16チーム計30試合で構成されていて、9月から5月いっぱいまで基本的には毎週リーグ戦があります。
厳密には大型連休や祝日で公式戦がない週もありますが、8ヶ月間で公式戦がない週は5回程度。
公式戦がない週は、大抵の場合ミニトーナメントに参加するのが一般的です。
 
 
自分のチームの環境(10-11歳の年代・7人制サッカー)
練習時間
1週間で平日に1時間15分の練習が3回( 計3時間45分 )と土日どちらかにリーグの公式戦を1試合です。
 
練習スペース
週に1回7人制のグラウンドの半分、週2回11人制のグラウンド8分の1。
 
 
自分はプレーモデルを軸にシーズンを進めていきます。
プレーモデルが浸透すれば良い成績が出ると考えていて、実際に今まで浸透するまでと、浸透してからの成績に誰が見ても分かるような差があるので、尚更信じています。
なのでいろんな局面のプレーモデル(守備ブロック、ビルドアップ、前プレなど)を浸透させていきながら自分達の望む結果を求めていきます。
 
 
 
 メインテーマ(プランニング方法) 
では本題のプランニングの内容に入っていきます。
プランニングを5つのフェーズに分けます。
1.  対戦相手分析
2.  ゲームプランの設計
3.  1週間で練習する技術・戦術コンセプトをリストアップ
4.  週3の練習でどの曜日にどれを練習するか
5.  練習作成
 
 
1は前の週の土日には終わっています。
つまり今日が週末で試合当日だとしたら、その時点で来週の対戦相手の分析は完了済み。
もう1つ先又は2つ先の対戦相手の試合も1度は目に通していることもよくあります。
(メソサイクルを設計するときに大事な情報になる)
 
2も同じく試合当日には来週のゲームプランの大枠は決まっていて詳細を詰めて可視化を土日で終わらせます。
 
3.4は基本的には土日に終わらせて、出来なければ週初めの練習前には終わらせます。
5の練習作成は練習当日です。
 
では1つ1つ説明していきます。
 
 
1. 対戦相手分析
毎週対戦相手の試合2~4試合撮影しておきます(アシスタントコーチの協力)
ここで特に重要視していることは
・相手がどのようにプレーするか(配置、戦術的意図)
・相手の得意・不得意な局面を知る
 
先程も言いましたが、この時点で分析しているのは今週の対戦相手ではなく来週又は再来週の対戦相手です。
先の対戦相手を分析しておくメリットは、時間の制限で急ぐ必要がなくなるのも当然ですが、他の大きなメリットは、先の対戦相手を見ておくことで計画的にミクロサイクルを立てられます。
 
もし分析が週の真ん中に終わったとしたら、対戦相手のことを知らない状態で1回の練習を迎かえることになります。
分析の結果、今週練習することが分かったけどもう時間がない!もしくはこの戦術今週使うかもしれないから、選手達に伝えておきたいけど時間がない!
別の例で言うと、分析の結果今週は守備に時間掛けるべきなのに、2セッションを攻撃に費やしたから一回しか守備のチーム戦術練習できない!
 
自分はこれが大っっっ嫌いなので、分析結果に基づいて今週自分達は何を練習するかをしっかり計画立ててから1週間に入ります。
 
料理で言うとレシピと作る手順を始める前に確認しておかなかったことによって、メインと前菜同時進行せず1つ出来上がる直前にもう一つ作り始める羽目に。
その結果時間が必要以上に掛かってしまうあれです。
料理に時間制限がありませんが、試合は開始時間が決まっているので致命的。
 
 
 
2. ゲームプラン
今週の相手の特徴が分かったので、自分達のプレーモデルに基づいてゲームプランを立てます。

ゲームプランを立てる上でのポイント3つ

1. 試合の軸となるプレー局面
まずメインとなるゲーム局面が何処になるかを1,2か所見極めそこにフォーカスします。
例えば、相手がビルドアップの局面でショートパスで前進を試みるチームだとしましょう。
もし自分達が前からプレスをかけて、相手のやりたい事を阻み、試合を優位に進める能力が力関係上あると思えば、そこを一つのメインとなるプレー局面に設定します。 
 
2. 自分達のプレーモデル
自分たちのプレーモデルの浸透具合も一つの大きな決定要因です。
自分の例を上げます。
このプレー局面で相手がこの配置(7人制なので3-2-1や2-3-1など)の時は自分たちはこの配置。
ビルドアップはこの原則でこういった狙い、というビルドアップの局面のプレーモデルがいくつかあります。
 
先ほども言いましたが、自分のプレーモデルが習得できれば成績に反映するので、それをできるだけ早く習得をしたいというのが頭の中にあります。
なので、試合である程度優位性が生み出せるレベルに達していれば、完成していなくてもそこをゲームプランのメイン部分に組み込み、試合で実践して浸透度を高めます
 (試合は最高の練習)
 
例えばまだ完成してないビルドアップを使わず、他の方法でプレーすれば少なくても3点差で勝てたとします。
反対にそのビルドアップを使えば、ギリギリだけど勝てるだろうと計算した場合、未完成のビルドアップを採用することも多いです。
つまり、この1試合だけの事を考えれば最高の選択ではないかもしれませんが、シーズンというスパンで見た時には、チームにとってより良い選択を選ぶようにしています。
(この様な選択肢を与えてくれるのがプランニングの良い所の一つ)
 
3. プランB
そしてメインもあれば、プランBも用意します。
計画通り行かないことも当然あるので、しっかり練習できなくても試合を優位に進めるストックは用意しておきます。
シーズン序盤は引き出しが多くないのでほとんど用意できませんが、シーズン終盤に入ると練習をしなくても実行できる(もう習得しているので)手段が多くなります。
これによって、駆け引きが簡単になり各プレー局面(プレーモデル)の完成度も高いのでそれが結果現れるというロジックです。
 
なのでシーズン終盤は後出しジャンケン状態になります(相手がこうするならこっちはこうするの繰り返し)
 
 
 
3. 1週間で練習テーマをリストアップ
       
 4. どの曜日にどれを練習するか
 
この2つの過程はほぼ同時並行です 
試合で自分達がどの様に戦うかが決まったので、それを実現するために何を練習するべきかを可視化する作業です。
試合でゲームプランを実行するために必要な、コンセプト(技術と個人戦術、グループ戦術、チーム戦術)を分解します。
その中で、優先順位つけて今週練習するコンセプトだけを抽出(チーム戦術を因数分解したら、1週間で収まる量ではない)
そして、1時間15分×3回の1週間の中でどの曜日にどれを練習するかを大枠決めます(練習するスペース、選手の人数は曜日によって多少違うので)
 

どのコンセプトを抽出するかの考慮する3つの要素

1. 今の自分たちが習得しないといけないもの
例えば、ゾーンディフェンス(僕の解釈ではゾーン色の強い守備ブロックのこと。詳しくは過去のnote記事をどうぞ)を習得し始める場合、スペースを埋める、スペースを守るという概念からスタートします
(今僕が持ってるチームはカタルーニャ州小学生高学年代の3部なのでこのレベルだとほとんどの選手にその概念がない)
 
2. 過去の試合で見つかった、プレーモデル習得において足りないコンセプト
同じゾーンディフェンスで例を挙げると、練習したけどスライドを理解出来ていない選手又は重要性に気付いてない場合、スライドをしないと上手くいかない練習を作りそれを通していつ、なぜ、どのようにを説明してそして試合を実践してまた改善点を見つけての繰り返しです。
 
3. 今週末の試合に勝つ為の戦術(自分達のプレーモデルではないもの)
シーズン序盤で、自分達がプレーモデルを実行出来るほどの完成度を持っていない時や、相手が明らかな長所・欠点を持っている場合、プレーモデルには組み込まれていない戦術を使うこともあります。
ここで大事なのはその戦術の再現が難しくないかを見極めること。
難しすぎる場合は1週間では習得できないので
 
 
練習作成
練習作成は練習当日に用意します。
といってもやることは前の過程でほとんど決まってるので、それに伴い幾つかの練習メニューも決まっています。
なので1,2個の練習を用意と微調整です。
 
当日に練習作成する理由は以下の2つの理由
・選手達の欠席で、練習人数も急遽変更になることもある
・前回のセッションの質を見て、やる予定だった練習をやらない又は、1度だけやる予定だったものをもう一度やるなどのミクロサイクルの調整 
 
意識するのはセッション全体のバランス
複雑性が高い練習ばかりにならないことや、新しいチーム戦術を最後やる場合はかなり脳に負荷がかかります。
なので、その前の練習は複雑性の低いトレーニングにします
(ルールが少ない、ワンプレーの参加人数が少なく待ち時間があるetc...)
他には、比較的プレーを止めて説明することが多い練習がある場合、他の練習では止まらない、動きの多い練習にするなどなど(選手は何も考えずにボールを蹴ることに純粋な楽しみを感じていると思うので)
 
 
 
 思考の寄り道 
この記事を読んでいて10-11歳でこんなに相手踏まえてチームでプレーするの?戦術そんなに練習するの?と感じた方もいるかもしれません。
 
自分も分かっているつもりです。
育成の事をだけを考えた場合、別のやり方の方がいいかもしれません。
 
ただ1つ言えるのは、自分も1人の指導者です
つまり、クラブという組織の中で評価をされないといけません
 
現状スペインの多くのクラブ(自分の所属クラブも含め)で監督を評価する最大の要素は結果です。
多くの指導者の方が思っている事だと思いますが、サッカー指導者には沢山の評価の要素がある中で結果はたった1つの要素に過ぎません。
ただ結果が大きな力を持っているのは現実です。
 
自分にはプロの世界で活躍するという夢があります。
正直自分は自分の夢やエゴをすべて捨てて、選手の為に働けるような仏ではありません。
もちろん、子供たちに真摯に向き合いますし。
純粋にボールを蹴りたいという気持ちを叶えようと試みます。
 
そうやって、この記事を読んでくれている中にもいる指導者の皆さんと同じ様に、自分と選手達や保護者又はクラブの理想を理解しながら、折り合いをつけてやっていると言う事を理解した上でこの記事を参考にして頂けたら幸いです。
 
 
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