今シーズン躍進のヘタフェを分析 戦術的意図

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バルセロナでのロックダウン生活も1か月経ちました
普段、指導者として過ごしていると、複数ある自分のチームと学校や仕事に忙しくシーズン中は多くの時間を取ることが出来ません
なので、今だからこそ出来る事に取り組めているので、自分からすると良い時間になっている側面もあります。
 
当然、社会的に見れば無いに越したことはないんですが、このようなアクシデントも人生の中では起こりうるので、皆さんも今だからこそ出来ることに取り組んでみたらいかがでしょうか。
 
 
 
 
ではサッカーの話題に入ります
自分が、普段できないことの中に欧州サッカーのトップレベルを見ることもその内の一つです。
どのチームを見ようかなと思ったときにここ数シーズン、特に今シーズン成績の観点からヘタフェは外せませんでした
 
今シーズンヘタフェの成績
リーガ
・現在5位
・あと勝ち点1でCL圏内
・3位のセビージャとの勝ち点差1
ELではCLのGL3位枠のアヤックスを倒しベスト16
 
今シーズンのチーム資金でいえばバルサの10分の1
スペイン1部リーグ全チーム別の給与額でみると20チーム13位
 
スペインで今シーズン要注目チームに上がってるのも当然なチーム、それがヘタフェです。
 
 
 
先に言っておきます
ヘタフェはよく言われる(少なくともスペインでは)ラフプレー、プレーイングタイムを減らす、ハードワークだけのチームではありません
もちろんデータでは上記のような数字が出ていますが、注目すべきはポイントはその戦術面にあります。
しかし、戦術面について語られてるコンテンツを見ないので今回は戦術面を解説していきたいと思います。
(今回記事を書くにあたって独断で選んだ5試合を1.5倍速で分析を進めました)
 
 
まずは、ヘタフェのチーム設計の大枠のチーム設計について触れて、その後この記事のメインのとなる2局面をフォーカスします
 
 
 
 

設計の大枠

守備面

一番特徴的で、チームでも練習を重ねている形跡が見えるのは、自陣に構える守備ブロック。
他には4-3-1-2で前からもプレスを掛け、ネガトラはかなり積極的な姿勢を見せます。
 
どの局面でもボールホルダーに強いプレスを掛ける・ボールを奪う意識が高いのは1つの特徴です。
長時間自陣に構えることを好むなど特別どこかの局面に偏ることはないです
守備に関しては後ほど話すのでこの辺で。
 

攻撃面

攻撃では定位置攻撃でもカウンターでも縦に早い攻撃を狙います。
例えば定位置攻撃の場合、ロングボールをFWに当ててセカンドボールを拾いそこからフィニッシュに向かう。
ボールを保持する場合、サイドから無理やり前進しフィニッシュの局面までもっていく傾向があります。
無理やりという言葉を戦術的にかみ砕くと、スペースと時間や3つの優位性がない状態ということです。
どちらにせよ短時間でボールを失いやすい攻め方ですが、ヘタフェにとって相手ゴール前(最後の3分の1)にボールを運ぶことが出来れば、攻撃の目的を半分達成したようなものです。
理由はこの後解説します。
 
 
5試合観た上で、試合展開は4つのサイクル(定位置攻撃・守備、トランジション攻撃・守備)すべてが速いテンポで現れます
強いて言うならボールを持っていない局面の方がやや長いと言えます(攻撃で縦に早いので必然的)
 
試合の中で大半の時間をゴール前で引きこもって相手を迎え撃つのような、1局面が試合の多くの時間を占めるようなことは基本的にはありません
当然相手によっては多少差はあります(それはどのチームでもそうですが)
例えばバルサ戦では自陣に構えるシーンは通常より増え、バレンシア戦では相手陣でボールを持つ時間がいつもより長くなりましたが基本的には上述した通りです。
 
ここからがこの記事のメイン
特徴的だった自陣での守備ブロックと、フィニッシュからの攻守の切り替えの2つの局面を解説します
 
 
 

守備ブロックの設計

 

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配置は4-4-2
特徴がMF4枚の間隔が通常より広いです
DFラインは逆に少し間隔が狭い間隔を保ち、中をケアする意識が高く
そしてこの2ライン間はかなり狭いです 
 
 

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 SHとボランチの間に距離がある(両サイド)

 

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赤丸がボールホルダーと1st DFとなるヘタフェのボランチ
その後ろにいる3人のMF同士の間隔はかなり広い
(意図的にカバーリングのポジションをとっていない)
 
 
 
例えば通常のゾーンディフェンスでいえば、1人がボールホルダーにプレスを掛けたら、他の選手はそれに応じて閉めて中へのパスコースを遮断します。
ですがこのチームのMFラインは意図的に中を閉める為に十分な距離をスライドしない、1st DFの斜め後ろのポジション(カバーリングのポジション)を取りません。
このことから、このチームはゾーンディフェンスで守っているとは言えないでしょう(ゾーンディフェンスというにはゾーンの意識が弱い)
 
なので中のパスコースは存在するので頻繁にライン間へパスが通ります。
もしアトレティコマドリードだったらそれを許した選手をシメオネが次の試合でベンチ外に送るでしょう。
 
 
 
ではヘタフェではライン間の選手がボールを受けた場合、どの様に対応するのかというとDFラインの出番です。
DFラインの選手がパスの移動中にボールホルダーへプレスを掛けます

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このシーンではSBがライン間の選手に対応(このプレーは1つ前の写真と同じシーン)
 
 
 

なぜMFラインが横をコンパクトにしない且つカバーリングをしないか?

ボールホルダーへ早くプレスに行ける
カバーリングのポジションを取ると、1st DFより後ろ(ボールホルダーにプレスを掛けている選手より自陣ゴール側)に立つ事になるため、今ボールを持っている相手選手がパスをした場合カバーリングのポジションをとっていた選手はそのパスを受けた選手から少し遠い位置にいることになる。
それによってその選手に強いプレスをかけれない。
 
 
これによって何が起こるか
ボールホルダーの時間を奪うもそうですが自分が思う主な理由は、ボールホルダーをなるべく遠い位置でプレーさせることが出来る
もしディフェンダーが低い位置にいればパスの受け手は、目指すゴールにより近いポジションを取れますが、ディフェンダーがより高い位置にいれば、ボールを受けるために下がります(インターセプトを避ける、ボールを持ったときの余裕を得るため)
もしボールホルダーが離れなければ、より近い距離までプレスを掛けることが出来るので、前への選択肢を削ることが出来るでしょう
 
 
なぜヘタフェは遠い位置でボールを持たせたいのか
それはライン間への縦パスに対応する時間が出来るから
ボールホルダーが遠くでボールを持ってくれれば、ライン間の選手とパスの出し手の距離が遠くなり、そうすると必然的にパスの到達時間が長くなります。
よって、縦パスが入ってもライン間を担当する4バックの選手にボールホルダーへプレスをかける時間が増えるからです
 
 
 
 もう1つのMFラインが横をコンパクトにしない理由は、サイドチェンジにも対応できるから
ゾーンディフェンスの原則は中を閉めて外を捨てる事です。いわゆる集中と選択ですね。
なので攻撃側からすればサイドチェンジをすれば時間を手に入れることがセオリーです。
ですが先ほど言った通りヘタフェのMFラインはスライドをしません
これはサイドチェンジしても逆SHが対応できる位置にいるということもできます。
なので攻撃側からすると、ゾーンディフェンスの相手程サイドチェンジでメリットを得れないということになります。
 
 
 
 
ここで少しまとめます
・ヘタフェは4-4-2でゾーンディフェンスではない
・MFラインの間隔は広く、DFラインの間隔は狭い(2ラインの間はかなりコンパクト)
・MFラインの選手同士の間隔が広い(スライドしないカバーリングをしない)理由はMFラインの前にいるボールホルダーに強いプレスをかけることとサイドチェンジにも対応すること
・DFラインはライン間でボールを受ける選手の対応
・これによって、サイドを使っても中を使ってもパスの受け手に時間を与えられない。
 
 
 
このチームの分析が難しいところは、ゾーンディフェンス=いい守備という固定概念があると、よくある戦術的に鍛えられてない、人の意識が強いチームに見えてしまうところです。
中を閉めるのはあくまで手段であり、目的ではない。
どんな戦術にも良いところと悪いところがあるということを教えてくれます。
 
 
 

定位置攻撃でのフィニッシュ - 攻→守への切り替え

 

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定位置攻撃(サイドアタック)

定位置攻撃では、フィニッシュはクロスが主な形。
特徴は上の図のようにアタッキングサードに近づくと、全ての選手が5レーン理論で言うところの逆サイドのハーフスペースまでに全員いる(逆の大外レーンには誰もいない)
これは、クロスの為にボックス内の人数とサイド攻撃に人数を割くのが主な攻撃での意図です
 
もちろんそれと引き換えに自分たちの攻撃ではスペースがない状況でフィニッシュをする必要があります(サイドチェンジはあまりしない)
それでも1~3人ボールサイドの大外レーンに人数を掛けて、フィジカルやスピ―ドでペナルティエリアの横まで無理やり持っていき、3人前後の人を用意いているペナルティエリアにクロスを上げるというのが仕組みです。
 
スペースのない状況を自分達で作っているのでクロスが雑になることもありますし、サイドでボールを失うこともあります。
しかし、ヘタフェはそれも計算に入れています。
 
 

 攻→守の切り替え

クロスやサイド攻撃などで、最後の3分の1でボールを失った瞬間ボールに奪う守備をします。
ここがヘタフェにとっての肝です
ここではチームとしてかなりアグレッシブにボールを奪いに行きます
バルサの7秒ルールをイメージしてもらって構いません、だだバルサより人は密集しているのでかなりアグレッシブなのが分かると思います。
 
ポイントはボールを失った瞬間すでにチームとして相手にプレスを掛ける人数はそろっています
なぜならついさっき話したようにチーム全体をコンパクトにしながら攻撃していたからです
 
 

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赤丸の選手たちはサイドでボールを失ってもボール周辺の守備者の役割を持ち

クロスが上がったらポジションを移しセカンドボール要員にもなれる

 

 

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クロスからフィニッシュのシーン

赤丸の2人の選手はボールを失った瞬間すぐにプレスを掛けれるポジションをとっている

 

 

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クロスボールを競り合ってる場面
この後、ボールを失った瞬間映っている選手全員でボールを取りに行く 
 
 
 
意外かもしれませんが、ヘタフェは攻守に繋がっている配置を設計しているチームです。
 
そこですぐ奪い、間髪入れず攻撃を再開し、ゴールに向かってフィニッシュに向かいます(ここでも縦に早い攻撃)
7秒以内で奪い返す→早くフィニッシュする→7秒以内で奪い返す→早くフィニッシュする。
この繰り返しがヘタフェの理想です
 
これによってショートカウンター(相手の守備陣形が崩れている状態)での攻撃の回数を増やして、勝つために必要なゴールをする確率を上げているのがヘタフェの戦略的な意図です
このネガティブトランジションがあるからヘタフェが最後の3分の1にボールを運べば目的の半分を達成したようなものと表現した理由です。
 
 
 
 
 

まとめ・思考の寄り道

ヘタフェは設計の中でリスク管理を重要視しているなと感じました。

攻撃面では、最後の3分の1まではロングボールかショートパスを使ってもサイドから前進して、奪われた時に危険度の高い場所からを極力避ける。
万が一失っても、致命傷は受けないコンパクトな状態で攻める
守備面では4バックの4枚は簡単に中央から動かさない設計。
 
ただリスクを管理に重きを置いた設計の中でリスクを冒しているとも思いました
というのは、コンパクトに守備をしながらも奪ったら人数を掛けた高い位置から奪いに行く守備。
自陣での守備ブロックでもスペースを埋める守備ではなくボールホルダーに強度の高いプレス(あわよくばボールを奪う)
 
 
個人的にヘタフェが躍進している要素として挙げるとしたら。
 
1.変わった守備の設計なので効果的な対抗策を再現性持って戦えるチームがまだ少ない。 
2.プレーモデルがはっきりしていて選手達が高いレベル(継続性があり速く)で実行出来ている
その代わり戦術の幅があるかどうかは監督の腕の見せ所(今後表面化してくる)
個人的には引き出しは多くないように見える。
 
もっと深掘りしたいところですが、今回はヘタフェの戦略的な部分にフォーカスしたものなので今回はここまで。
一つの局面に絞ってもっと細かい部分や仕組み(戦術的な部分)を分析する記事なんかも別のチームでやっていければなと考えてます。
 
 
リバプールの守り方もそうですが、中を閉めて外でプレーさせるという定石も見直されているなと。
そんなチームをここ最近見るようになりました。
ただ中を閉めるというセオリーが廃れることはないですが
大事なのは意図と戦術が繋がっているか
 
 
 
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