チェルシー×トゥヘルの5-2-3守備ブロックの設計 -戦術的意図・プレー原則・個人の役割-

 

Thomas Tuchel, nuevo entrenador del Chelsea | Goal.com

 

今回はチェルシーの5-2-3守備ブロック分析です。

私用でチェルシーの守備分析のプレゼンを作っているのですが、それをブログ用にコンパクトにしたものです。

 

今回の記事のポイント

チェルシーの5-2-3の守備ブロックをマクロからミクロまで解説

チーム戦術がどのような構造、仕組みなのかを解説しさらにその中で個人の役割は何なのかを解説しています。

 

・約15000字と沢山の画像を使って解説

長いというのか、ボリュームがあるというのか。

とにかくかなり文字数多い記事です。

 

このブログを読む為に費やした時間におつりが来るくらいの価値は提供出来ると思います。

ほんの少しの覚悟を持って目を通していただければ幸いです。

では前書きはこの辺で早速本題に移りましょう

 

 

守備設計の全体像
 

f:id:mimanera:20210914210922p:plain

この守備ブロックの特徴
まずこの守備ブロックの全体像を話していきます。
スタートポジションは5-2-3です。
各ポジションの名前はこの名称で統一していきます。
 
画像を見ていただければ分かるように、選手間同士の距離は短くはありません。
ライン間にもスペースが存在します。
低い位置でブロックを構える時はコンパクトになりますが、基本的にはチェルシーが望んでいるものではなく、基本的には縦の距離は長いです。
 
このCL決勝では、後半はシティが攻略し始めていたためリスクマネジメントとして守備ブロックの位置を下げてローブロック且つ縦の距離感を縮めました。
その時点ではもうチェルシーの狙いは実行出来ていないので、別物に近いです。
(なので今回の記事では、理解してもらう事を目的としているため上手く行っている前半の画像だけを使っています)
因みにそれでもシティは前半よりゴールの雰囲気が漂うようになったので、コバチッチの投入と同時に完全に5-4-1になりました。
 
この形で前プレもします。
今回は話しませんが、根本の構造は同じですが選手の役割の基準が違うと解釈しています。
 
 
後に詳しく説明していきますが、ゾーンディフェンスの色が強いかというと強くありません。
昨シーズンから採用するチームが増えてきた(と思っている)、3トップがパスコースを切ることで中央を封鎖するタイプの守備。
と表現したものの言葉にはまだ出来ないが本当に大事な事、カッコ良く言えば本質はそこでは無いと思っています。
 
今シーズンからこの守り方を採用するチームが増えてくるでしょう。
(もう増えているといってもいいかも)
 
 
守備設計の主な部分
この守備設計メインとなる部分を3つのシーンに分けます。
守備ブロックが上手く機能している時はこのシーンが多く現れます。
その3つを簡単に説明します。
 
 
3トップの前でボールを持っている時
守備ブロック外の大外レーンにいる選手にボールを誘導

f:id:mimanera:20210917180555p:plain

                   ↓
 
守備ブロック外の大外レーンにボールがある時
ボールホルダー(SBかCB又は降りてきたボランチ)にプレスをかけて守備ブロックの中の最も高い位置にいるタッチライン際にいる選手(主にWG)に縦パスを誘導
f:id:mimanera:20210917180620p:plain
                   ↓
 
守備ブロック内の大外レーンにボールがある時
WGにパスを誘導し、ブロック内にいるパスの受け手に背後からプレスを掛けて前を向かせない。
ここでのゴールはボールを奪うか、バックパスをさせて3トップの前でボールを持っている時の振り出しに戻す

f:id:mimanera:20210917180645p:plain

 
この記事では主にこの3つのシーンでの
・チームの狙いが何か、
・チームがどのように動いているのか
・チームの中で個人の役割は何か
を解説していきます
 
 

チェルシーの守備構造と個人の役割

 3トップの前のセンター・インサイドレーンにボールがある時  
 

f:id:mimanera:20210917181731p:plain

 戦術的意図 

ここでのチームの狙いは守備ブロックの外のアウトサイドレーンへボールを誘導すること

3トップの外経由で大外レーンに誘導することがポイント

これが大外レーンに誘導した後の守備をしやすい(後ほど解説)

f:id:mimanera:20210817203238p:plain

図の守備ブロックの高さは1例

この図より高いこともあれば低いこともある。

よって、赤いエリアも守備ブロックの位置や特にWGの高さによって変わる

後ほど理由を説明するが、大事なのはCBやSBが大外レーンで受けること

(理想はタッチライン際)

目安としては、WGのポジションと大体同じ高さ(少し高くても低くてもWGが距離を縮めて制限掛けられればOK)

 

 プレー原則 

チームとして戦術的意図である狙いを実現するためのポイントを掴んでもらうためにギュッとまとめて説明すると

・3トップが白いゾーンへのパスコースを制限と自分のいるレーンからの相手ボールホルダーのドリブルでの侵入を防ぐ。

・ダブルボランチ・サイドCBが白いエリアにいる受け手となる選手をマークし、前を向かせない。

繰り返しますがなぜこれを実行するかというと、これは大外レーンにボールを誘導する為

つまり上2つのポイントは手段です

 

 チームの中での個人の役割  

f:id:mimanera:20210918090115p:plain

そしてこれが個人のタスク

各ポジションの役割を言葉にしました。

ポイントは、マークやパスコースを切るではなく、5W1Hまで言葉にしています。 

ブログ中盤以降にて試合画像を使って解説していきます。

  

こんなに細かい事選手に行っても分かるの?という疑問が聞こえてきました。

答えは出来ます。

なぜなら当然ですがこれを少しずつセッションでトレーニングしていき、練習や試合の動画を見せながら改善してく。

これらを何度も、時間をかけて繰り返していくからです。

これだけパッと見たら

えっ!!!っと思ってしまうかもしれませんが、冷静になれば戦術的にレベルの高いチームはこれくらいやるか。

と腑に落ちていただけたらなと。

 

ということで、この記事ではこのくらいまで解剖していきます。

 

 

 守備ブロックの外の大外レーンへボールを誘導中・誘導後 
  

f:id:mimanera:20210817194944p:plain

 戦術的意図 

「守備ブロックの外の大外レーンへボールを誘導中・誘導後」の定義は

前のプレーシチュエーションの「3トップの前のセンター・インサイドレーンにボールがある時  」から大外レーンボール保持者が縦パスを蹴る瞬間まで

縦パスが入ったら次のプレーシチュエーションへの移行のスイッチが入ります

 

ここでのチームでの目的

・大外レーンへの縦パスを誘発させること

・縦パスが入った後の次のプレーシチュエーションである、「守備ブロック内の大外レーンにボールがある時」の予測と準備

 

 

 プレー原則 

ここでのポイントは

・WGが大外レーンのボール保持者に縦パスを選択するように誘導出来ていること。

(中の選択肢を消し、縦パスのコースを空けておく)

・ボールサイドに人がいること (スライドと表現することも出来なくもないが、スライドは1つのラインがボールサイドにライン状に寄っているというのが自分の解釈なので上の表現にします)

・大外インサイドレーンのManCの受け手の選手マーク出来るポジション調整をする

 

f:id:mimanera:20210827215827p:plain

このシーンでの主な登場人物はこのエリアの選手達です

 

・ボールホルダーへの大外レーンへの縦パスの誘導

・チャンネルの裏抜けの対応

・大外レーンとインサイドレーンの相手選手へのマンマークの準備(移行のタイミング)

主にこの3つをこのグループで行います

 

このWGのポジションが重要で、5-4-1の様にボランチの横ではなく、3トップとして高い位置からボールホルダーに制限を掛けていることによってパスの受け手との距離が出来ます。

この距離が出来ることによって、パスの移動時間が長くなり、DFが受け手との距離を詰める時間が出来ます。

 

これよって密着マークを容易にします。

つまり激しく密着マークが出来るのはWBの能力もありますが、WGの大きく貢献しているのです。

なので少し話が逸れますが、ここでWBの「対人能力だけ」を評価するのは正確な評価ではありません。

これは個人をサッカーの試合の中で「個人」を評価する事の難しさであり、本当に「個人」は評価できるのか?という哲学的なテーマになってきます。

 

ちなみにこの出し手と受け手の距離とパスの移動時間の話はヘタフェ分析の時に触れました。

良ければブログのトップページからお探しください。

(記事のリンクを張ることも考えましたが、この長い記事にさらに記事のリンクはカロリーオーバーだと思うので止めました)

 

このプレーシチュエーションでのポイントに話を戻します。

WBはWG(正確にはManCの高い位置で幅を取っている選手)の対応は固定。

サイドCBが自分が何を守るか決める。

(基本的には大外レーンにいる縦パスを受けそうな選手、又はWGにパスが入った時一番近くのサポートになる選手)

そして、ボールサイドのボランチはボールサイドのサイドCBのアクションに応じて意思決定します

 

何故かというとこのシーンでは次の準備の為にポジショニングが徐々にマンマーク気味になっていきます

ボランチはこの前のシーンで中央のスペース管理をしているので、自然と大外レーンのマークに間に合うのはボールサイドのサイドCB(WBは常にWGに対応)

なので、ボランチはそれに応じたポジションを取ります。

 

 チームの中での個人の役割 

先程は図に個人の役割を書きましたが、ここからは図とは別に個人の役割を書きます。

 

CF

タスク(これが出来てればいい)

・次のプレーシチュエーション(ブロック内の大外レーンにボールが入った時)の為の準備

戦術アクション

インサイドレーンにポジションを取る

(大外レーンには入らない)

・次のシーンの為のボール周辺の状況認知

(相手、味方選手の状況)

 

ボールサイドのWG 

タスク

・大外レーンのボールホルダーに大外レーンへの縦パスを誘導

・大外レーンのボールホルダーのブロック中への選択肢を消す

戦術アクション 

・大外レーンのボールホルダーの中央への選択肢を消しながらプレス

・プレスの掛ける時、大外レーンへの縦パスのコースは空ける(誘導の為)

・ボール保持者のインサイドレーンへのパスコースを切る(大外レーンへの縦パスのコースは空いている)

※ どのアクションにせよ中央へのパスコースを消すことと運ぶドリブルの選択肢を制限し、縦パスを誘導する為

 

ウィークサイドのWG(逆サイドのWG) 

タスク

・次のプレーシチュエーション(ブロック内の大外レーンにボールが入った時)の為の準備

戦術アクション

・ 中央レーンにポジション調整

・アンカー(ギュンドガン)の位置を確認

 

ボールサイドのボランチ   

タスク

・BSのCBが何をしているかを見て、次のアクションの判断とポジショニングの調整

戦術アクション

・ボールサイドCBのアクションを認知(どこにいて、縦パスが入ったら次に何をしようとしているか)そのうえで次の2つのアクションを選ぶ

アクション 1

もしボールサイドCBがマークの為にDFラインから離れていて 、

チャンネル(WBと中央CB間のスペース)からDFライン裏に抜けていく選手がいる場合ついていく

(優先度高)

                   or

アクション 2                                                                      

次のシーンに向けて、WGがボールを持った時にサポートになる選手をマーク対象の決定し距離を縮める

(優先度中)

 

ウィークサイドのボランチ

タスク

ボールサイドのボランチのアクションを見て、自分のアクションを決定

戦術アクション

下記の3つのアクションの内から自分がこなせるアクションを、次のプレーシチュエーションの戦術的意図と優先順位に沿って選択し、その為のポジション調整

・CBの前のスペースを埋める  理想的だが優先度低い

・ボールサイドのボランチインサイドレーンマンマークでの役割を受け持つ  

頻度低 優先度高

インサイドレーンにいるボールを受けたら中央侵入する可能性のある選手のマーク   頻度高 優先度中

 

ボールサイドのWB

タスク

WGがボールを受けたらバックパス以外何もさせない為のポジション調整

 戦術アクション

・WGに密着マーク出来る距離でマンマーク 

・WGが裏抜けした場合ついていく

 

ボールサイドのサイドCB

タスク

WGに一番近い選手へのマンマークへの移行(準備)

戦術アクション

・マーク対象との距離を縮める 

 

中央のCB

タスク

・基本的には自分のポジションから動かず必要な時だけ離れる

(ポジションは大体インサイドレーン)

・周りの選手にコーチン

戦術アクション

・裏抜け対応

・スペース埋める

 

ウィークサイドのサイドCB 

タスク

・自分のポジションを守る

(ポジションは大体中央レーン) 

・サイドチェンジされた時にの為にスライドしすぎない

戦術アクション

・裏抜け対応

・スペースを埋める

 

ウィークサイドのWB 

タスク

・自分のマークであるWGの警戒

・サイドチェンジされた時にの為にスライドしすぎない

 (ポジションは大体ウィークサイドのインサイドレーン) 

戦術アクション

・WGにロングパスが来た時にカット又はフリーで受けさせない距離でのマーク

・裏抜けについていく

・スペースを埋める

 

 

 縦パスがWGに入った時 

 

f:id:mimanera:20210830042228p:plain

 戦術的意図 

このプレーシチュエーションの定義は「大外レーンのボールホルダーがWGへ縦パスを蹴った瞬間」から、「赤いエリアからボールが出るまで」

※赤いエリアはこの後すぐに説明します

縦パスを誘導し、縦パスが出た時の準備をしていたのが前のプレーシチュエーション。

ここでは縦パスの受け手とそれをサポートする選手に狭いスペースの中でかなり強いプレスを掛けます。

 

ここでチームとして狙いは

・DFラインの裏、大外レーンから中央へのパスすらさせない

・バックパスで「相手が3の前でボールを持ってるとき」に戻す

・可能であればボールを奪う、パスミスを誘発する

チームとして相手にやらせたくないのは

・2-3間(ダブルボランチと3トップの間)経由で中央レーンでパスを入れさせない

・ペナ横に侵入させない(パスであろうとドリブルであろうと)

 

f:id:mimanera:20210829221354p:plain

つまり縦パスが入ったら、この赤いエリアの中でかなり強いプレッシャーを掛けます。
中央にも縦にも侵入を許さない。

(チェルシーがこのように特定のゾーンを決めているかは分かりませんが、この記事の中ではこの共通理解で進めていきます)

相手の唯一の道はバックパス 。

前半はこの5-2-3の守備ブロックのシーンからは、チャンスを作られるシーンどころ

か被シュート数も数本程度に抑えました

 

 プレー原則 

縦パスの受け手選手を密着するくらいの前を向かせないプレスで後ろ向きの状態でしかパスできない制限された状態にします。

その時周りの選手は、大外レーンとインサイドレーンのボール周辺でボール保持者のサポートしている選手を、かなり近い距離でマンマーク又はカバーシャドウでボールホルダーの選択肢をなくしています。

そうなると、パスコースがない又は、サポートの選手がパスを受けても似たように密着プレスを受けながら、後ろを向いた状況でプレーせざるを得ない状態になります。

 

 チームの中での個人の役割 

CF

タスク(これが出来てればいい)

・ボールを受けたら赤いエリアから出そうな選手を警戒

インサイドレーンにいる・大外レーンには入らない

( カウンターの準備も兼ねている)

戦術アクション

・ ボールを受けたら赤いエリアから出そうな選手のマーク

(密着マークではない)

・カウンターの為に出来るだけフリーでいる(相手選手から離れておく)

※アンカーであるギュンドガンが中央レーンに留まれば奪った瞬間フリーになりやすい 

 

ボールサイドのWG 

タスク

・BSのグループの一員としてボールボールホルダーとその周辺の選手にプレスを掛ける

・グループでボールを奪うことが優先だが、出来ればボールは奪いに行かない

戦術アクション 

・自分が1stDFとしてプレスかけていた大外レーンにいる相手選手のパスコースを切る

・ボールが奪えるようであれば1stDFとボールホルダーを挟みに行く (優先度低)

 

ウィークサイドのWG(逆サイドのWG)

タスク

・アンカーのギュンドガンが中央レーンにいる場合を警戒

・カウンターの準備

戦術アクション

・ 中央レーンにポジションを取る

・アンカーのギュンドガンがボールを受けたらプレスに間に合うポジションを取る

(密着マークはしない)

 ※アンカーであるギュンドガンインサイドレーンに行けば奪った瞬間フリーになりやすい 

 

ボールサイドのボランチ

タスク

・BSのグループの一員としてボールボールホルダーとその周辺の選手にプレスを掛ける

戦術アクション

・チャンネル(WBと中央CB間のスペース)からDFライン裏に抜けていく選手がいる場合、もし自分が対応しなければいけない選手がいればついていく

・大外・インサイドレーンの相手選手をかなり距離でマンマークかパスコースを切る

 

ウィークサイドのボランチ

タスク

状況によって、前のタスクの継続又は役割の変更

戦術アクション

ボール周辺の状況を見て、下記の3つのアクションの内から自分がこなせるアクションを、次のプレーシチュエーションの戦術的意図と優先順位に沿って選択し、その為の役割調整

・CBの前のスペースを埋める  理想的だが優先度低い

・ボールサイドのボランチインサイドレーンマンマークでの役割を受け持つ  

頻度低 優先度高

インサイドレーンにいるボールを受けたら中央侵入する可能性のある選手のマーク   頻度高 優先度中

 

ボールサイドのWB

タスク

・WGがボールを持っていても持っていなくても、バックパス以外何もやらせない

 戦術アクション

・ボールを持っている場合密着プレス

・WGに密着マーク出来る距離でマンマーク 

・WGが裏抜けした場合ついていく

 

ボールサイドのサイドCB

タスク

・自分のマークがボールを持ってたら、バックパス以外何もやらせない

 戦術アクション

・密着プレス(ボールを持っている場合)

・密着マーク出来る距離でマンマーク (ボールを持っていない場合)

・裏抜けした場合ついていく(ボールを持っていない場合)

 

中央のCB

タスク

・基本的には自分のポジションから動かず必要な時だけ離れる

(ポジションは大体インサイドレーン)

・周りの選手にコーチン

戦術アクション

・裏抜け対応

・ポジションを守る(カバーリングはしない)

 

ウィークサイドのサイドCB

タスク

・自分のポジションを守る

(ポジションは大体中央レーン) 

・サイドチェンジされた時にの為にスライドしすぎない

戦術アクション

・裏抜け対応

 

ウィークサイドのWB

タスク

・自分のマークであるWGの警戒

・サイドチェンジされた時にの為にスライドしすぎない

 (ポジションは大体ウィークサイドのインサイドレーン) 

戦術アクション

・WGにロングパスが来た時にパスカット又はフリーで受けさせない距離でのマーク

・裏抜けについていく

 

 

この記事の読み方

ここから実際の試合画像を見ていきます。
考慮しておいて欲しいのは、「戦術アクション」を「常にどんな時も選手全員が100%」実行している訳ではありません。
物理的に同時に出来ないものも含まれていますし、出来るのにやらないこともあります。
 
何故かというと「戦術アクション」は「チームの狙い」を達成する為の自分の役割である「自分のタスク」の主な手段です
繰り返します主な手段です
つまり絶対ではありません
 
試合では相手がいます。
相手もこの守備構造を攻略する為に適応して来るので
・自分は本来この役割だけど今はこの役割を助ける。
・相手がこうしてきたらチームの狙いが達成できないから、それを守りつつ自分の役割を達成できるポジションを取る
・本来はこの戦術アクションをするのが普通だけど今はチームの狙いを達成する為には必要ないから、カウンターに備えておこうetc...
 
という風に数人(1~多くても3人)の選手が「チームの狙い」に沿った上で判断をすることは毎回ではないにしろ起こります。
もし「個人の役割」というこの基準がない状態で、監督からチームの狙いはこれだ!あとはお前らの判断でやってくれ!となった場合起こり得るのは
・選手が「俺は具体的に何をすればいいの?」
・「じゃあ俺はボールを奪う」という選手が沢山いて誘導する選手がいない、中のスペースを埋めるやつがいない、逆サイドに誰もいないからサイドチェンジされたら簡単に前進されるといった全体最適されてない
といったところが代表的なところでしょう。
自由とは聞こえの良いものですがチームプレーのサッカーで秩序は必要なのは明白です。
 
 
もう一つ
この記事で書いている守備構造は上手く行っている場面上手く行ってない場面どちらからも読み取ったことです
 
是非試合の映像を見ながらこの記事を見ていただきたいのですが、当然ながらチェルシーがこのプレーシチュエーションで上手くいってないシーンもあります。
例えば前半15分~25分辺りや、後半は中央を無理やり突破するというリスクを取ったグアルディオラ
この時間帯又はこのシーンは状況によって理想通り出来てはいないけど、プレー原則通り実行しようとしているな又は、したいけど出来ないんだな。
と解釈しています。
 
Twitterで1プレーを解説する動画が流れてきますが、1プレー分析は起きた現象「そのもの」を解説するもの。
そしてこの記事はそのチームの基準(この記事で言うと、すでに上記で説明した部分)の中でどのように実行しているか試合画像を使って理解を深めるというのがこの記事です。
(1プレー分析にもこの記事にも良いところがある)
 
この記事に書いていることとは全く違う意見、言ってることは理解できるけど解釈の仕方は少し違う、はたまた解釈の仕方がすごく似てるけど結論は違う。
などなどいろいろな意見があると思いますが、1プレー分析のような観方ではなく、上記のような観方をしていただければ、この記事からのインプットがより良いものになると思います。
 
「プレー原則とは?」みたいな話になってしまいました。
試合画像解説に移ります。

 

 

試合画像解説 

今まで話してきたことの理解を深めるために実際の試合画像を使って見ていきましょう。

3つのプレーシチュエーションを繋げて、1つのプレーとして話していきます。

 

シーン1

f:id:mimanera:20210902193827p:plain

赤丸がボールホルダー

つまり中央レーンにボールがあります 

 

ここでチェルシーの狙いはブロック内への侵入を防ぐこと。

3トップはブロックの中へのパスコースを切っています。

特にWGは自分のレーンにいる選手がボールを持った時に制限を掛けれるようなポジションを取りながら自分のタスクをこなしています。

完全にパスコース上に立ってはいませんが、ボールホルダーとの距離を考えるとパスは出ないという計算で体の向きはポジションを取っています。

 

ちなみにアスクリピエタチアゴ・シウバ、ハヴァーツの3人が手を挙げているが、これは「アンカーのギュンドガン見とけ!」と指をさしています。

 

f:id:mimanera:20210902195741p:plainパスがシティの右CBに出ました。

チェルシーの左WGは後ろのパスコースを切りながら、ボールホルダーにゆっくり距離を詰め制限を掛け、WBはボールを受けに少し下がった相手WGについていく。

左サイドCBは目の前にいる IH(ベルナルド・シウバ)のマークに移行し始める。

その裏でできたスペースをシティのトップ下のフォーデンが走り込み、それをボールサイドのボランチはそれに対応。

中央のCBはなるべく持ち場を離れない。

 

f:id:mimanera:20210902200517p:plainシティのWGがボールを受ける直前

 

WBは何もさせないように密着マーク。

隣にいる左サイドCBは相手WGが中にドリブルした時の為に対応できる且つ目の前にいる自分の担当であるベルナルド・シルバをマーク。
本来ならもっと近くに行くべき場面だが、チームの「プレー原則」である赤いエリアから出さないを実現するために、中のドリブルの予防をしているのでOK。

これが先ほど言った、「個人の役割」を100%実行していないが「チームの狙い」を実行している代表例。

 

f:id:mimanera:20210905200437p:plain

このシーンがボールを受けた直後 

WBが密着マークし続け、サイドCBも同じく中への侵入を警戒しながら自分のマークを続ける(実は少しポジションが低い、ボールを見すぎてこの直後にヤベッってなって急いでポジション修正をする)

ボールサイドのボランチは裏向けした選手が低い位置に降り始めたので、それについていく。

 

WGはボールに一番近いCBのパスコースを切り、CFのヴェルナーがインサイドレーンでもしサイドCBの担当のベルナルド・シルバが受け手中にドリブルしてきたら妨げられるようなポジション。

カウンターの起点になることも忘れていないので、距離は取っている。

 

f:id:mimanera:20210905195929p:plainそして最終的にファールでプレーが切れた。

注目してほしいのは、ボールを受けたのが正確には 4:44でファールになったのが4:49

あのシティが5秒間の間、時間もスペースもないのにも関わらず5秒間もボールを持ってしまった。

それだけボールホルダー周辺の選択肢なかった証拠だろう。

試合を見ればわかると思うが、これに似たシーンが特に前半何度も起こった。

 

 

シーン2

f:id:mimanera:20210905205458p:plain

別のシーン

Man Cの3バックの左(厳密には4バックだがこのシーンでは3バックなので3バックの左と表現)がインサイドレーンにいるジンチェンコに縦パス。

 

まず誘導のシーンで大外レーンでボールホルダーに左CBにパスを受けさせることが出来なかった。

ここについては、複数の要素が関わっている。

このシーンは給水タイムの直後のシーン。

 

10分ごろからMan Cはサイドからチャンスを作るのが難しいと考え、中央からの前進を試みる回数が増える。

徐々に中央からの侵入で、対守備ブロックの局面から決定機から作れそうな雰囲気少し出てくる。(サイドからは全く決定機を作れる雰囲気はなかった)

これによってチェルシーは、ManのCが真ん中に人を集めるとチェルシーの3トップは通常時より中を閉めることになる。

これがこの試合の前半中盤

 

そして34分の給水タイムでトゥヘルは変更を加える。

簡単に言えば

・ブロックを下げてコンパクトにした事
(中に侵入されてもスペースが無かったら、その後相手は優位性を生み出すことが出来ない)
・中央に選手を集める事で、中を締める意識が強くなっている
(そもそも簡単に中に入れない)
 
詳しくは説明しないが、これの2つによってCBのポジションをコントロール出来ず、インサイドレーンをボールを受ける事を許した。
(興味ある人は考えてみてください)
 
このチームレベルの影響があるにせよ、縦パスが入ってしまったことに関してはWGのミス。
ボールホルダーがインサイドレーンにいるので、中をやられたく無いが為に、もう少し縦を切るのを無意識レベルで中のケアを優先した。
だが彼の役割は大外レーンにパスを誘導すること。
 
 
少し話が逸れましたが話を戻します。
ボールホルダーは大外レーンではないですが、やることは一緒。
もう縦パスははいっているので、ボール周辺の選手は既にマンマークの色が強い守備に切り替わっている。
 
サイドCBはインサイドレーンでボールを受けようとしているジンチェンコについている。
WBもWGにマークをしている。
守備ブロック全体はスライドしています。
 

f:id:mimanera:20210908192642p:plain

サイドCBのアスピリクエタが1stDF
守備設計上想定の範囲外のプレーなので、アスピリクエタも良いリアクションはしたが少し遅れているので密着マークは出来ない。
左利きのジンチェンコに完全に前を向かれないようにかつ振り切られないな距離感とプレス。
そして左足で裏へのパス、縦パスなど崩されるきっかけになるような選択肢を優先的に切るプレス。
アスピリクエタのプレーをあまり見た事なかったけど、ここまでしっかり見てみるとモウリーニョが褒めるのも分かる)

 

WGは近くのボールホルダー近くのCBパスコースを切る。
WBは引き続きマーク。距離はしっかり縮めている。

 

f:id:mimanera:20210908195240p:plain

WGがボールを受けた場面

アスピリクエタは自分のマークのジンチェンコを意識しながらスターリングのカットインに対応。

インサイドレーンでサポートしているデブライネを、カンテがマーク。

サイドチェンジされたので逆サイドから間に合うように走って来た。

 

CFのヴェルナーはマンマークはせずに(カウンターを忘れていない)アンカーのギュンドガンへのパスをインターセプトを狙う位置

中央CB、ウィークサイドのサイドCB、WBは自分の持ち場を守る

(必要以上にBSに寄らない)

 

f:id:mimanera:20210908200614p:plain

スターリングが中央のデブライネへのパスを選択。

スターリングが選択したというか多分グアルディオラが指示した。

この前のシーンでサイドから攻撃した時もタッチラン際から同じようにインサイドレーンの選手に横パスをした。

先ほども言ったがこのシーンは給水タイム直後のシーンで、再開直後サイドから攻撃を左右1回ずつしたのだが、ほぼ同じプレーをしているので指示の可能性が高い。

 

f:id:mimanera:20210908200821p:plain

そしてカンテが奪いカウンターで決定機を迎えたチェルシー

 

この後グアルディオラがベンチでスペイン語カタルーニャ語で叫んでいそうなシーンがあるのですが、自分は優しいのでその画像は載せません。

 

シーン3

f:id:mimanera:20210913181932p:plain

まず配置の確認

チェルシーは分かりやすい5-2-3の状態

シティはギュンドガンがボールホルダー(赤丸で囲まれている)

その隣にいるのが2CBで、右のタッチラインとハーフェーラインで交わっている部分にいるのが右SB。

チェルシーの3トップに対して、ManCは数的優位を作る為にこの4バックを形成。

ここまで言えば前がどうなっているのがお分かりだと思うので割愛。

右サイドでカイル・ウォーカーにファールがあり、そこから再開しているので全体的に右に寄っている。

 

ボールホルダーが相手CFのヴェルナーに向かってドリブルし固定する。

チェルシーの周りの選手の役割を簡単に復習すると、ブロック中のパスコースを切ったりマークし、外の選択肢だけに限定する。

 

f:id:mimanera:20210913192853p:plain

ギュンドガンが運ぶドリブルでヴェルナーを引き付け、更にアンカーの位置に戻ることで時間のある状態で受けることが出来たCB。

この画像で見てほしいのは、チェルシー右WG。

本来ならもう少し高い位置かつボールを受ける大外レーンのCB寄りのポジションを取りたかったが、ステップを踏みかえて中を閉める。

彼の後ろにいるインサイドレーンのジンチェンコが受けれるポジションへポジション修正している。

それをこの直前に首を振って認知したので判断を変えたチェルシーの右WG。

 

f:id:mimanera:20210913191905p:plain

この画像は大外レーンにいるもう一人のCBにパスをする瞬間。

チェルシーの右WGはインサイドレーンのパスコースを消している。

前の画像ではセンターサークルの線上にいたが、今はサークルの中にいる。

  

f:id:mimanera:20210913195521p:plain

通常以上に中に絞らざるを得なかったので、CBは広大なスペースで受けることが出来た。

本来ならここで、WGが中の選択肢を削りながらボールホルダーとの距離を縮めるのが理想。

 

実はこのシーンは実際の映像を見ていただければ分かるが、ボールホルダーに間に合ったのではないか?という微妙なシーン。

ただ実際は行かなかった。

この先を見れば分かるが、この後カンテが対応することになる。

推測だが、トゥヘルの反応やチェルシーの選手たちの反応を見る限り、ミスではない。

正解かもしれないし、じゃないにしても許容範囲。このボールホルダーに行かなかったのはミスではない。

 

プレーモデルに沿って考えれる仮説の要素は

・ここでの「間に合う」定義が「大外レーンボールホルダーが運ぶドリブルが出来ない又は出来ても足を出して奪える状態」(つまりボールホルダーの前に居なければいけない)

・カウンターの前残りの役割

・WGはインサイドレーンにいる近くの選手をマークしているので、中の選択肢は削れている

 

説明していきます。

上の画像のシーンでボールホルダーに行ったとしても、並走した状態で「間に合う」ことは出来た。

だが運ぶドリブルがされただろう。

じゃあ、ボールに直線的に行かずに、5-4-1のSHの様にカンテがいる高さの位置大きく先回りすれば、中の選択肢を削りながら運ぶドリブルをけん制出来ただろう。

でもそれならカンテが行けば良くない?という判断。

なぜならこのWGの選手にはカウンター要員として「前残り」するという役割もある。

これらを踏まえると、WGが行かずカンテがボールホルダーの対応をしてWGが自分の目の前にいるインサイドレーンのジンチェンコをマークすれば、中の選択肢を消しながら、前残りが出来る。

 

これが一番有力な仮説。

勿論大前提に、WGが「間に合う」のが理想。

ただ「間に合わない」時にこの方法がチェルシーの1つの方法。

 

f:id:mimanera:20210913194757p:plain

前述した通り、最終的にカンテボールホルダーに行き、WGがインサイドレーンの選手を見る。

こう見るとカンテとの役割が反対の場合よりこちらの方が適材適所だろう。

カンテは自分の持ち場を離れてまでは行かない。

運ぶドリブルで来てくれるのを待っている。

中央レーンでスペースを与えて決定機を作られるのだけは避けなければならない。

もし来ないでバックパスしてくれれば又やり直すだけ。

 

f:id:mimanera:20210914193653p:plain

最終的にCBはここまでボールを運びタッチライン際のWGにパスした瞬間の画像。

チェルシーにとっては思惑通り大外レーンで密集地帯でのマンマークの状況を作れた。

中央のCB、ウィークサイドのサイドCBとWBの3人は原則通り持ち場をキープ

ウィークサイドのボランチはボールが来てもCBをさらさない為に前のスペースを埋める。

 

f:id:mimanera:20210914200106p:plain

そして最後にWGにボールが渡り何も出来ずファールで終わったシーン。

WBはWGに前を向かせず、周辺の選手はマンマーク

WGは後ろでサポートをしているジンチェンコへのパスコースを狙っている。

ボールホルダーからは遠いが、インサイドレーンにいるアンカーのギュンドガンをヴェルナーは警戒している。

 

チェルシーは最終的には理想の形であるこの形に持って行った。

 

 

守備構造まとめ・思考の寄り道

このブログの最終段階に来ました。

まとめをしていきたいと思います。

 

ボールが中央・インサイドレーンにある時

チームとして5-2-3の守備ブロックの中への侵入を妨げる

3トップがポジションで攻撃のスタートとなるDFラインにいる選手の選択肢を主にパスコースを切ること、居ることで運ぶドリブルをけん制。

ボランチとサイドCBが(特ににボランチ)がブロックの中でボールを受けそうな選手をマーク又はパスコースを切ることでボールを受けることをけん制、させたとしてもバックパス以外をさせない。

                  ↓

守備ブロックの外の大外レーンへボールを誘導中・誘導後

WGに縦パスが入った時の準備段階

中への選択肢を制限し続けながら、WGにパスが入った時にボールを奪う為にマークの色を強くする(マーク対象との距離を縮める)

                  ↓

 縦パスがWGに入った時 

ボールを奪う又はバックパスをさせる

ボールホルダーに密着するほどのプレスを掛けて何もさせない、ボール周辺の選手にもボールを受けた時には同じように強度の強いプレスを掛けれるようにかなり近い距離を取る。

最終的にボールを奪う又は、バックパスを相手に選ばせる。

 

 

今回解説したシーン以外にも、3トップの間から侵入された時、WGに縦パスが入った後ダブルボランチと3トップの間を経由してサイドチェンジされた時の対応などなどデザインされているのですがこの記事では割愛。

実はボールの奪いどころは別の所にもあり、中央レーンやインサイドレーンから外への横パスをインターセプトするシーンがとても多い。

ここに関しても守備の再現性が高いので、計算の内に入っている。

 

トゥヘルの頭の中

この守備ブロックを戦略的な視点から見ると、3トップをカウンターの為に高い位置に残して置きながら、安全なサイドで攻撃させて奪えるような仕組みがある。

たとえ奪えなかったとしてもチャンスは作らせない。

なんとも完璧に見えてしまう守備ブロックである。

ボール保持率も高いので、実際にトゥヘル×チェルシー以降の失点はとてつもなく低いのも納得である

(2021/9/18現在)

 

ただどんな戦術にも弱点はある。

後半はグアルディオラが完全に攻略したとは言えないが解決の糸口を見つけた。

(後半の試合画像を使ってないのはその為。理解してもらう事を目的としているので、比較的上手く行っている前半の動画を使った)

各選手のタスク配分にバラつきがあるので、タスクを多く抱えてる選手やその周辺スペースをどう利用するかがカギとなってくるだろう。

 

みなさんご存じのチェルシーの代名詞のセットオフェンス。

この守備ブロックと前残りでボールを持ってない段階で優位に立ちさらにはオーガナイズされたカウンター。

半シーズンという時間で、沢山の武器を高レベルで仕上げたトゥヘルは現在間違いのなくトップオブトップの指導者。

 

自分が知っている限りでは、昨シーズンこの5-2-3を使ったのは恐らく、リーグ後半戦のシティ戦(CL決勝カードが決まった直後の試合)、CLマドリー戦 2nd legとCL決勝の3試合だけ。

(確認した試合は70%なので訂正があればチェルシーファンの方良ければコメントどうぞ)

今シーズンのチェルシーの試合をセットディフェンスのシーンだけ見たら、この守備戦術を今シーズンも使っていまいた。

つまり本格的に対策されるのは今シーズンから。

対戦相手がどのような対策を講じて、どのように適応していくかは今後も注目。