チェルシー×トゥヘルの5-2-3守備ブロックの設計 -戦術的意図・プレー原則・個人の役割-

 

Thomas Tuchel, nuevo entrenador del Chelsea | Goal.com

 

今回はチェルシーの5-2-3守備ブロック分析です。

私用でチェルシーの守備分析のプレゼンを作っているのですが、それをブログ用にコンパクトにしたものです。

 

今回の記事のポイント

チェルシーの5-2-3の守備ブロックをマクロからミクロまで解説

チーム戦術がどのような構造、仕組みなのかを解説しさらにその中で個人の役割は何なのかを解説しています。

 

・約15000字と沢山の画像を使って解説

長いというのか、ボリュームがあるというのか。

とにかくかなり文字数多い記事です。

 

このブログを読む為に費やした時間におつりが来るくらいの価値は提供出来ると思います。

ほんの少しの覚悟を持って目を通していただければ幸いです。

では前書きはこの辺で早速本題に移りましょう

 

 

守備設計の全体像
 

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この守備ブロックの特徴
まずこの守備ブロックの全体像を話していきます。
スタートポジションは5-2-3です。
各ポジションの名前はこの名称で統一していきます。
 
画像を見ていただければ分かるように、選手間同士の距離は短くはありません。
ライン間にもスペースが存在します。
低い位置でブロックを構える時はコンパクトになりますが、基本的にはチェルシーが望んでいるものではなく、基本的には縦の距離は長いです。
 
このCL決勝では、後半はシティが攻略し始めていたためリスクマネジメントとして守備ブロックの位置を下げてローブロック且つ縦の距離感を縮めました。
その時点ではもうチェルシーの狙いは実行出来ていないので、別物に近いです。
(なので今回の記事では、理解してもらう事を目的としているため上手く行っている前半の画像だけを使っています)
因みにそれでもシティは前半よりゴールの雰囲気が漂うようになったので、コバチッチの投入と同時に完全に5-4-1になりました。
 
この形で前プレもします。
今回は話しませんが、根本の構造は同じですが選手の役割の基準が違うと解釈しています。
 
 
後に詳しく説明していきますが、ゾーンディフェンスの色が強いかというと強くありません。
昨シーズンから採用するチームが増えてきた(と思っている)、3トップがパスコースを切ることで中央を封鎖するタイプの守備。
と表現したものの言葉にはまだ出来ないが本当に大事な事、カッコ良く言えば本質はそこでは無いと思っています。
 
今シーズンからこの守り方を採用するチームが増えてくるでしょう。
(もう増えているといってもいいかも)
 
 
守備設計の主な部分
この守備設計メインとなる部分を3つのシーンに分けます。
守備ブロックが上手く機能している時はこのシーンが多く現れます。
その3つを簡単に説明します。
 
 
3トップの前でボールを持っている時
守備ブロック外の大外レーンにいる選手にボールを誘導

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                   ↓
 
守備ブロック外の大外レーンにボールがある時
ボールホルダー(SBかCB又は降りてきたボランチ)にプレスをかけて守備ブロックの中の最も高い位置にいるタッチライン際にいる選手(主にWG)に縦パスを誘導
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                   ↓
 
守備ブロック内の大外レーンにボールがある時
WGにパスを誘導し、ブロック内にいるパスの受け手に背後からプレスを掛けて前を向かせない。
ここでのゴールはボールを奪うか、バックパスをさせて3トップの前でボールを持っている時の振り出しに戻す

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この記事では主にこの3つのシーンでの
・チームの狙いが何か、
・チームがどのように動いているのか
・チームの中で個人の役割は何か
を解説していきます
 
 

チェルシーの守備構造と個人の役割

 3トップの前のセンター・インサイドレーンにボールがある時  
 

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 戦術的意図 

ここでのチームの狙いは守備ブロックの外のアウトサイドレーンへボールを誘導すること

3トップの外経由で大外レーンに誘導することがポイント

これが大外レーンに誘導した後の守備をしやすい(後ほど解説)

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図の守備ブロックの高さは1例

この図より高いこともあれば低いこともある。

よって、赤いエリアも守備ブロックの位置や特にWGの高さによって変わる

後ほど理由を説明するが、大事なのはCBやSBが大外レーンで受けること

(理想はタッチライン際)

目安としては、WGのポジションと大体同じ高さ(少し高くても低くてもWGが距離を縮めて制限掛けられればOK)

 

 プレー原則 

チームとして戦術的意図である狙いを実現するためのポイントを掴んでもらうためにギュッとまとめて説明すると

・3トップが白いゾーンへのパスコースを制限と自分のいるレーンからの相手ボールホルダーのドリブルでの侵入を防ぐ。

・ダブルボランチ・サイドCBが白いエリアにいる受け手となる選手をマークし、前を向かせない。

繰り返しますがなぜこれを実行するかというと、これは大外レーンにボールを誘導する為

つまり上2つのポイントは手段です

 

 チームの中での個人の役割  

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そしてこれが個人のタスク

各ポジションの役割を言葉にしました。

ポイントは、マークやパスコースを切るではなく、5W1Hまで言葉にしています。 

ブログ中盤以降にて試合画像を使って解説していきます。

  

こんなに細かい事選手に行っても分かるの?という疑問が聞こえてきました。

答えは出来ます。

なぜなら当然ですがこれを少しずつセッションでトレーニングしていき、練習や試合の動画を見せながら改善してく。

これらを何度も、時間をかけて繰り返していくからです。

これだけパッと見たら

えっ!!!っと思ってしまうかもしれませんが、冷静になれば戦術的にレベルの高いチームはこれくらいやるか。

と腑に落ちていただけたらなと。

 

ということで、この記事ではこのくらいまで解剖していきます。

 

 

 守備ブロックの外の大外レーンへボールを誘導中・誘導後 
  

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 戦術的意図 

「守備ブロックの外の大外レーンへボールを誘導中・誘導後」の定義は

前のプレーシチュエーションの「3トップの前のセンター・インサイドレーンにボールがある時  」から大外レーンボール保持者が縦パスを蹴る瞬間まで

縦パスが入ったら次のプレーシチュエーションへの移行のスイッチが入ります

 

ここでのチームでの目的

・大外レーンへの縦パスを誘発させること

・縦パスが入った後の次のプレーシチュエーションである、「守備ブロック内の大外レーンにボールがある時」の予測と準備

 

 

 プレー原則 

ここでのポイントは

・WGが大外レーンのボール保持者に縦パスを選択するように誘導出来ていること。

(中の選択肢を消し、縦パスのコースを空けておく)

・ボールサイドに人がいること (スライドと表現することも出来なくもないが、スライドは1つのラインがボールサイドにライン状に寄っているというのが自分の解釈なので上の表現にします)

・大外インサイドレーンのManCの受け手の選手マーク出来るポジション調整をする

 

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このシーンでの主な登場人物はこのエリアの選手達です

 

・ボールホルダーへの大外レーンへの縦パスの誘導

・チャンネルの裏抜けの対応

・大外レーンとインサイドレーンの相手選手へのマンマークの準備(移行のタイミング)

主にこの3つをこのグループで行います

 

このWGのポジションが重要で、5-4-1の様にボランチの横ではなく、3トップとして高い位置からボールホルダーに制限を掛けていることによってパスの受け手との距離が出来ます。

この距離が出来ることによって、パスの移動時間が長くなり、DFが受け手との距離を詰める時間が出来ます。

 

これよって密着マークを容易にします。

つまり激しく密着マークが出来るのはWBの能力もありますが、WGの大きく貢献しているのです。

なので少し話が逸れますが、ここでWBの「対人能力だけ」を評価するのは正確な評価ではありません。

これは個人をサッカーの試合の中で「個人」を評価する事の難しさであり、本当に「個人」は評価できるのか?という哲学的なテーマになってきます。

 

ちなみにこの出し手と受け手の距離とパスの移動時間の話はヘタフェ分析の時に触れました。

良ければブログのトップページからお探しください。

(記事のリンクを張ることも考えましたが、この長い記事にさらに記事のリンクはカロリーオーバーだと思うので止めました)

 

このプレーシチュエーションでのポイントに話を戻します。

WBはWG(正確にはManCの高い位置で幅を取っている選手)の対応は固定。

サイドCBが自分が何を守るか決める。

(基本的には大外レーンにいる縦パスを受けそうな選手、又はWGにパスが入った時一番近くのサポートになる選手)

そして、ボールサイドのボランチはボールサイドのサイドCBのアクションに応じて意思決定します

 

何故かというとこのシーンでは次の準備の為にポジショニングが徐々にマンマーク気味になっていきます

ボランチはこの前のシーンで中央のスペース管理をしているので、自然と大外レーンのマークに間に合うのはボールサイドのサイドCB(WBは常にWGに対応)

なので、ボランチはそれに応じたポジションを取ります。

 

 チームの中での個人の役割 

先程は図に個人の役割を書きましたが、ここからは図とは別に個人の役割を書きます。

 

CF

タスク(これが出来てればいい)

・次のプレーシチュエーション(ブロック内の大外レーンにボールが入った時)の為の準備

戦術アクション

インサイドレーンにポジションを取る

(大外レーンには入らない)

・次のシーンの為のボール周辺の状況認知

(相手、味方選手の状況)

 

ボールサイドのWG 

タスク

・大外レーンのボールホルダーに大外レーンへの縦パスを誘導

・大外レーンのボールホルダーのブロック中への選択肢を消す

戦術アクション 

・大外レーンのボールホルダーの中央への選択肢を消しながらプレス

・プレスの掛ける時、大外レーンへの縦パスのコースは空ける(誘導の為)

・ボール保持者のインサイドレーンへのパスコースを切る(大外レーンへの縦パスのコースは空いている)

※ どのアクションにせよ中央へのパスコースを消すことと運ぶドリブルの選択肢を制限し、縦パスを誘導する為

 

ウィークサイドのWG(逆サイドのWG) 

タスク

・次のプレーシチュエーション(ブロック内の大外レーンにボールが入った時)の為の準備

戦術アクション

・ 中央レーンにポジション調整

・アンカー(ギュンドガン)の位置を確認

 

ボールサイドのボランチ   

タスク

・BSのCBが何をしているかを見て、次のアクションの判断とポジショニングの調整

戦術アクション

・ボールサイドCBのアクションを認知(どこにいて、縦パスが入ったら次に何をしようとしているか)そのうえで次の2つのアクションを選ぶ

アクション 1

もしボールサイドCBがマークの為にDFラインから離れていて 、

チャンネル(WBと中央CB間のスペース)からDFライン裏に抜けていく選手がいる場合ついていく

(優先度高)

                   or

アクション 2                                                                      

次のシーンに向けて、WGがボールを持った時にサポートになる選手をマーク対象の決定し距離を縮める

(優先度中)

 

ウィークサイドのボランチ

タスク

ボールサイドのボランチのアクションを見て、自分のアクションを決定

戦術アクション

下記の3つのアクションの内から自分がこなせるアクションを、次のプレーシチュエーションの戦術的意図と優先順位に沿って選択し、その為のポジション調整

・CBの前のスペースを埋める  理想的だが優先度低い

・ボールサイドのボランチインサイドレーンマンマークでの役割を受け持つ  

頻度低 優先度高

インサイドレーンにいるボールを受けたら中央侵入する可能性のある選手のマーク   頻度高 優先度中

 

ボールサイドのWB

タスク

WGがボールを受けたらバックパス以外何もさせない為のポジション調整

 戦術アクション

・WGに密着マーク出来る距離でマンマーク 

・WGが裏抜けした場合ついていく

 

ボールサイドのサイドCB

タスク

WGに一番近い選手へのマンマークへの移行(準備)

戦術アクション

・マーク対象との距離を縮める 

 

中央のCB

タスク

・基本的には自分のポジションから動かず必要な時だけ離れる

(ポジションは大体インサイドレーン)

・周りの選手にコーチン

戦術アクション

・裏抜け対応

・スペース埋める

 

ウィークサイドのサイドCB 

タスク

・自分のポジションを守る

(ポジションは大体中央レーン) 

・サイドチェンジされた時にの為にスライドしすぎない

戦術アクション

・裏抜け対応

・スペースを埋める

 

ウィークサイドのWB 

タスク

・自分のマークであるWGの警戒

・サイドチェンジされた時にの為にスライドしすぎない

 (ポジションは大体ウィークサイドのインサイドレーン) 

戦術アクション

・WGにロングパスが来た時にカット又はフリーで受けさせない距離でのマーク

・裏抜けについていく

・スペースを埋める

 

 

 縦パスがWGに入った時 

 

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 戦術的意図 

このプレーシチュエーションの定義は「大外レーンのボールホルダーがWGへ縦パスを蹴った瞬間」から、「赤いエリアからボールが出るまで」

※赤いエリアはこの後すぐに説明します

縦パスを誘導し、縦パスが出た時の準備をしていたのが前のプレーシチュエーション。

ここでは縦パスの受け手とそれをサポートする選手に狭いスペースの中でかなり強いプレスを掛けます。

 

ここでチームとして狙いは

・DFラインの裏、大外レーンから中央へのパスすらさせない

・バックパスで「相手が3の前でボールを持ってるとき」に戻す

・可能であればボールを奪う、パスミスを誘発する

チームとして相手にやらせたくないのは

・2-3間(ダブルボランチと3トップの間)経由で中央レーンでパスを入れさせない

・ペナ横に侵入させない(パスであろうとドリブルであろうと)

 

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つまり縦パスが入ったら、この赤いエリアの中でかなり強いプレッシャーを掛けます。
中央にも縦にも侵入を許さない。

(チェルシーがこのように特定のゾーンを決めているかは分かりませんが、この記事の中ではこの共通理解で進めていきます)

相手の唯一の道はバックパス 。

前半はこの5-2-3の守備ブロックのシーンからは、チャンスを作られるシーンどころ

か被シュート数も数本程度に抑えました

 

 プレー原則 

縦パスの受け手選手を密着するくらいの前を向かせないプレスで後ろ向きの状態でしかパスできない制限された状態にします。

その時周りの選手は、大外レーンとインサイドレーンのボール周辺でボール保持者のサポートしている選手を、かなり近い距離でマンマーク又はカバーシャドウでボールホルダーの選択肢をなくしています。

そうなると、パスコースがない又は、サポートの選手がパスを受けても似たように密着プレスを受けながら、後ろを向いた状況でプレーせざるを得ない状態になります。

 

 チームの中での個人の役割 

CF

タスク(これが出来てればいい)

・ボールを受けたら赤いエリアから出そうな選手を警戒

インサイドレーンにいる・大外レーンには入らない

( カウンターの準備も兼ねている)

戦術アクション

・ ボールを受けたら赤いエリアから出そうな選手のマーク

(密着マークではない)

・カウンターの為に出来るだけフリーでいる(相手選手から離れておく)

※アンカーであるギュンドガンが中央レーンに留まれば奪った瞬間フリーになりやすい 

 

ボールサイドのWG 

タスク

・BSのグループの一員としてボールボールホルダーとその周辺の選手にプレスを掛ける

・グループでボールを奪うことが優先だが、出来ればボールは奪いに行かない

戦術アクション 

・自分が1stDFとしてプレスかけていた大外レーンにいる相手選手のパスコースを切る

・ボールが奪えるようであれば1stDFとボールホルダーを挟みに行く (優先度低)

 

ウィークサイドのWG(逆サイドのWG)

タスク

・アンカーのギュンドガンが中央レーンにいる場合を警戒

・カウンターの準備

戦術アクション

・ 中央レーンにポジションを取る

・アンカーのギュンドガンがボールを受けたらプレスに間に合うポジションを取る

(密着マークはしない)

 ※アンカーであるギュンドガンインサイドレーンに行けば奪った瞬間フリーになりやすい 

 

ボールサイドのボランチ

タスク

・BSのグループの一員としてボールボールホルダーとその周辺の選手にプレスを掛ける

戦術アクション

・チャンネル(WBと中央CB間のスペース)からDFライン裏に抜けていく選手がいる場合、もし自分が対応しなければいけない選手がいればついていく

・大外・インサイドレーンの相手選手をかなり距離でマンマークかパスコースを切る

 

ウィークサイドのボランチ

タスク

状況によって、前のタスクの継続又は役割の変更

戦術アクション

ボール周辺の状況を見て、下記の3つのアクションの内から自分がこなせるアクションを、次のプレーシチュエーションの戦術的意図と優先順位に沿って選択し、その為の役割調整

・CBの前のスペースを埋める  理想的だが優先度低い

・ボールサイドのボランチインサイドレーンマンマークでの役割を受け持つ  

頻度低 優先度高

インサイドレーンにいるボールを受けたら中央侵入する可能性のある選手のマーク   頻度高 優先度中

 

ボールサイドのWB

タスク

・WGがボールを持っていても持っていなくても、バックパス以外何もやらせない

 戦術アクション

・ボールを持っている場合密着プレス

・WGに密着マーク出来る距離でマンマーク 

・WGが裏抜けした場合ついていく

 

ボールサイドのサイドCB

タスク

・自分のマークがボールを持ってたら、バックパス以外何もやらせない

 戦術アクション

・密着プレス(ボールを持っている場合)

・密着マーク出来る距離でマンマーク (ボールを持っていない場合)

・裏抜けした場合ついていく(ボールを持っていない場合)

 

中央のCB

タスク

・基本的には自分のポジションから動かず必要な時だけ離れる

(ポジションは大体インサイドレーン)

・周りの選手にコーチン

戦術アクション

・裏抜け対応

・ポジションを守る(カバーリングはしない)

 

ウィークサイドのサイドCB

タスク

・自分のポジションを守る

(ポジションは大体中央レーン) 

・サイドチェンジされた時にの為にスライドしすぎない

戦術アクション

・裏抜け対応

 

ウィークサイドのWB

タスク

・自分のマークであるWGの警戒

・サイドチェンジされた時にの為にスライドしすぎない

 (ポジションは大体ウィークサイドのインサイドレーン) 

戦術アクション

・WGにロングパスが来た時にパスカット又はフリーで受けさせない距離でのマーク

・裏抜けについていく

 

 

この記事の読み方

ここから実際の試合画像を見ていきます。
考慮しておいて欲しいのは、「戦術アクション」を「常にどんな時も選手全員が100%」実行している訳ではありません。
物理的に同時に出来ないものも含まれていますし、出来るのにやらないこともあります。
 
何故かというと「戦術アクション」は「チームの狙い」を達成する為の自分の役割である「自分のタスク」の主な手段です
繰り返します主な手段です
つまり絶対ではありません
 
試合では相手がいます。
相手もこの守備構造を攻略する為に適応して来るので
・自分は本来この役割だけど今はこの役割を助ける。
・相手がこうしてきたらチームの狙いが達成できないから、それを守りつつ自分の役割を達成できるポジションを取る
・本来はこの戦術アクションをするのが普通だけど今はチームの狙いを達成する為には必要ないから、カウンターに備えておこうetc...
 
という風に数人(1~多くても3人)の選手が「チームの狙い」に沿った上で判断をすることは毎回ではないにしろ起こります。
もし「個人の役割」というこの基準がない状態で、監督からチームの狙いはこれだ!あとはお前らの判断でやってくれ!となった場合起こり得るのは
・選手が「俺は具体的に何をすればいいの?」
・「じゃあ俺はボールを奪う」という選手が沢山いて誘導する選手がいない、中のスペースを埋めるやつがいない、逆サイドに誰もいないからサイドチェンジされたら簡単に前進されるといった全体最適されてない
といったところが代表的なところでしょう。
自由とは聞こえの良いものですがチームプレーのサッカーで秩序は必要なのは明白です。
 
 
もう一つ
この記事で書いている守備構造は上手く行っている場面上手く行ってない場面どちらからも読み取ったことです
 
是非試合の映像を見ながらこの記事を見ていただきたいのですが、当然ながらチェルシーがこのプレーシチュエーションで上手くいってないシーンもあります。
例えば前半15分~25分辺りや、後半は中央を無理やり突破するというリスクを取ったグアルディオラ
この時間帯又はこのシーンは状況によって理想通り出来てはいないけど、プレー原則通り実行しようとしているな又は、したいけど出来ないんだな。
と解釈しています。
 
Twitterで1プレーを解説する動画が流れてきますが、1プレー分析は起きた現象「そのもの」を解説するもの。
そしてこの記事はそのチームの基準(この記事で言うと、すでに上記で説明した部分)の中でどのように実行しているか試合画像を使って理解を深めるというのがこの記事です。
(1プレー分析にもこの記事にも良いところがある)
 
この記事に書いていることとは全く違う意見、言ってることは理解できるけど解釈の仕方は少し違う、はたまた解釈の仕方がすごく似てるけど結論は違う。
などなどいろいろな意見があると思いますが、1プレー分析のような観方ではなく、上記のような観方をしていただければ、この記事からのインプットがより良いものになると思います。
 
「プレー原則とは?」みたいな話になってしまいました。
試合画像解説に移ります。

 

 

試合画像解説 

今まで話してきたことの理解を深めるために実際の試合画像を使って見ていきましょう。

3つのプレーシチュエーションを繋げて、1つのプレーとして話していきます。

 

シーン1

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赤丸がボールホルダー

つまり中央レーンにボールがあります 

 

ここでチェルシーの狙いはブロック内への侵入を防ぐこと。

3トップはブロックの中へのパスコースを切っています。

特にWGは自分のレーンにいる選手がボールを持った時に制限を掛けれるようなポジションを取りながら自分のタスクをこなしています。

完全にパスコース上に立ってはいませんが、ボールホルダーとの距離を考えるとパスは出ないという計算で体の向きはポジションを取っています。

 

ちなみにアスクリピエタチアゴ・シウバ、ハヴァーツの3人が手を挙げているが、これは「アンカーのギュンドガン見とけ!」と指をさしています。

 

f:id:mimanera:20210902195741p:plainパスがシティの右CBに出ました。

チェルシーの左WGは後ろのパスコースを切りながら、ボールホルダーにゆっくり距離を詰め制限を掛け、WBはボールを受けに少し下がった相手WGについていく。

左サイドCBは目の前にいる IH(ベルナルド・シウバ)のマークに移行し始める。

その裏でできたスペースをシティのトップ下のフォーデンが走り込み、それをボールサイドのボランチはそれに対応。

中央のCBはなるべく持ち場を離れない。

 

f:id:mimanera:20210902200517p:plainシティのWGがボールを受ける直前

 

WBは何もさせないように密着マーク。

隣にいる左サイドCBは相手WGが中にドリブルした時の為に対応できる且つ目の前にいる自分の担当であるベルナルド・シルバをマーク。
本来ならもっと近くに行くべき場面だが、チームの「プレー原則」である赤いエリアから出さないを実現するために、中のドリブルの予防をしているのでOK。

これが先ほど言った、「個人の役割」を100%実行していないが「チームの狙い」を実行している代表例。

 

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このシーンがボールを受けた直後 

WBが密着マークし続け、サイドCBも同じく中への侵入を警戒しながら自分のマークを続ける(実は少しポジションが低い、ボールを見すぎてこの直後にヤベッってなって急いでポジション修正をする)

ボールサイドのボランチは裏向けした選手が低い位置に降り始めたので、それについていく。

 

WGはボールに一番近いCBのパスコースを切り、CFのヴェルナーがインサイドレーンでもしサイドCBの担当のベルナルド・シルバが受け手中にドリブルしてきたら妨げられるようなポジション。

カウンターの起点になることも忘れていないので、距離は取っている。

 

f:id:mimanera:20210905195929p:plainそして最終的にファールでプレーが切れた。

注目してほしいのは、ボールを受けたのが正確には 4:44でファールになったのが4:49

あのシティが5秒間の間、時間もスペースもないのにも関わらず5秒間もボールを持ってしまった。

それだけボールホルダー周辺の選択肢なかった証拠だろう。

試合を見ればわかると思うが、これに似たシーンが特に前半何度も起こった。

 

 

シーン2

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別のシーン

Man Cの3バックの左(厳密には4バックだがこのシーンでは3バックなので3バックの左と表現)がインサイドレーンにいるジンチェンコに縦パス。

 

まず誘導のシーンで大外レーンでボールホルダーに左CBにパスを受けさせることが出来なかった。

ここについては、複数の要素が関わっている。

このシーンは給水タイムの直後のシーン。

 

10分ごろからMan Cはサイドからチャンスを作るのが難しいと考え、中央からの前進を試みる回数が増える。

徐々に中央からの侵入で、対守備ブロックの局面から決定機から作れそうな雰囲気少し出てくる。(サイドからは全く決定機を作れる雰囲気はなかった)

これによってチェルシーは、ManのCが真ん中に人を集めるとチェルシーの3トップは通常時より中を閉めることになる。

これがこの試合の前半中盤

 

そして34分の給水タイムでトゥヘルは変更を加える。

簡単に言えば

・ブロックを下げてコンパクトにした事
(中に侵入されてもスペースが無かったら、その後相手は優位性を生み出すことが出来ない)
・中央に選手を集める事で、中を締める意識が強くなっている
(そもそも簡単に中に入れない)
 
詳しくは説明しないが、これの2つによってCBのポジションをコントロール出来ず、インサイドレーンをボールを受ける事を許した。
(興味ある人は考えてみてください)
 
このチームレベルの影響があるにせよ、縦パスが入ってしまったことに関してはWGのミス。
ボールホルダーがインサイドレーンにいるので、中をやられたく無いが為に、もう少し縦を切るのを無意識レベルで中のケアを優先した。
だが彼の役割は大外レーンにパスを誘導すること。
 
 
少し話が逸れましたが話を戻します。
ボールホルダーは大外レーンではないですが、やることは一緒。
もう縦パスははいっているので、ボール周辺の選手は既にマンマークの色が強い守備に切り替わっている。
 
サイドCBはインサイドレーンでボールを受けようとしているジンチェンコについている。
WBもWGにマークをしている。
守備ブロック全体はスライドしています。
 

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サイドCBのアスピリクエタが1stDF
守備設計上想定の範囲外のプレーなので、アスピリクエタも良いリアクションはしたが少し遅れているので密着マークは出来ない。
左利きのジンチェンコに完全に前を向かれないようにかつ振り切られないな距離感とプレス。
そして左足で裏へのパス、縦パスなど崩されるきっかけになるような選択肢を優先的に切るプレス。
アスピリクエタのプレーをあまり見た事なかったけど、ここまでしっかり見てみるとモウリーニョが褒めるのも分かる)

 

WGは近くのボールホルダー近くのCBパスコースを切る。
WBは引き続きマーク。距離はしっかり縮めている。

 

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WGがボールを受けた場面

アスピリクエタは自分のマークのジンチェンコを意識しながらスターリングのカットインに対応。

インサイドレーンでサポートしているデブライネを、カンテがマーク。

サイドチェンジされたので逆サイドから間に合うように走って来た。

 

CFのヴェルナーはマンマークはせずに(カウンターを忘れていない)アンカーのギュンドガンへのパスをインターセプトを狙う位置

中央CB、ウィークサイドのサイドCB、WBは自分の持ち場を守る

(必要以上にBSに寄らない)

 

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スターリングが中央のデブライネへのパスを選択。

スターリングが選択したというか多分グアルディオラが指示した。

この前のシーンでサイドから攻撃した時もタッチラン際から同じようにインサイドレーンの選手に横パスをした。

先ほども言ったがこのシーンは給水タイム直後のシーンで、再開直後サイドから攻撃を左右1回ずつしたのだが、ほぼ同じプレーをしているので指示の可能性が高い。

 

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そしてカンテが奪いカウンターで決定機を迎えたチェルシー

 

この後グアルディオラがベンチでスペイン語カタルーニャ語で叫んでいそうなシーンがあるのですが、自分は優しいのでその画像は載せません。

 

シーン3

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まず配置の確認

チェルシーは分かりやすい5-2-3の状態

シティはギュンドガンがボールホルダー(赤丸で囲まれている)

その隣にいるのが2CBで、右のタッチラインとハーフェーラインで交わっている部分にいるのが右SB。

チェルシーの3トップに対して、ManCは数的優位を作る為にこの4バックを形成。

ここまで言えば前がどうなっているのがお分かりだと思うので割愛。

右サイドでカイル・ウォーカーにファールがあり、そこから再開しているので全体的に右に寄っている。

 

ボールホルダーが相手CFのヴェルナーに向かってドリブルし固定する。

チェルシーの周りの選手の役割を簡単に復習すると、ブロック中のパスコースを切ったりマークし、外の選択肢だけに限定する。

 

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ギュンドガンが運ぶドリブルでヴェルナーを引き付け、更にアンカーの位置に戻ることで時間のある状態で受けることが出来たCB。

この画像で見てほしいのは、チェルシー右WG。

本来ならもう少し高い位置かつボールを受ける大外レーンのCB寄りのポジションを取りたかったが、ステップを踏みかえて中を閉める。

彼の後ろにいるインサイドレーンのジンチェンコが受けれるポジションへポジション修正している。

それをこの直前に首を振って認知したので判断を変えたチェルシーの右WG。

 

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この画像は大外レーンにいるもう一人のCBにパスをする瞬間。

チェルシーの右WGはインサイドレーンのパスコースを消している。

前の画像ではセンターサークルの線上にいたが、今はサークルの中にいる。

  

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通常以上に中に絞らざるを得なかったので、CBは広大なスペースで受けることが出来た。

本来ならここで、WGが中の選択肢を削りながらボールホルダーとの距離を縮めるのが理想。

 

実はこのシーンは実際の映像を見ていただければ分かるが、ボールホルダーに間に合ったのではないか?という微妙なシーン。

ただ実際は行かなかった。

この先を見れば分かるが、この後カンテが対応することになる。

推測だが、トゥヘルの反応やチェルシーの選手たちの反応を見る限り、ミスではない。

正解かもしれないし、じゃないにしても許容範囲。このボールホルダーに行かなかったのはミスではない。

 

プレーモデルに沿って考えれる仮説の要素は

・ここでの「間に合う」定義が「大外レーンボールホルダーが運ぶドリブルが出来ない又は出来ても足を出して奪える状態」(つまりボールホルダーの前に居なければいけない)

・カウンターの前残りの役割

・WGはインサイドレーンにいる近くの選手をマークしているので、中の選択肢は削れている

 

説明していきます。

上の画像のシーンでボールホルダーに行ったとしても、並走した状態で「間に合う」ことは出来た。

だが運ぶドリブルがされただろう。

じゃあ、ボールに直線的に行かずに、5-4-1のSHの様にカンテがいる高さの位置大きく先回りすれば、中の選択肢を削りながら運ぶドリブルをけん制出来ただろう。

でもそれならカンテが行けば良くない?という判断。

なぜならこのWGの選手にはカウンター要員として「前残り」するという役割もある。

これらを踏まえると、WGが行かずカンテがボールホルダーの対応をしてWGが自分の目の前にいるインサイドレーンのジンチェンコをマークすれば、中の選択肢を消しながら、前残りが出来る。

 

これが一番有力な仮説。

勿論大前提に、WGが「間に合う」のが理想。

ただ「間に合わない」時にこの方法がチェルシーの1つの方法。

 

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前述した通り、最終的にカンテボールホルダーに行き、WGがインサイドレーンの選手を見る。

こう見るとカンテとの役割が反対の場合よりこちらの方が適材適所だろう。

カンテは自分の持ち場を離れてまでは行かない。

運ぶドリブルで来てくれるのを待っている。

中央レーンでスペースを与えて決定機を作られるのだけは避けなければならない。

もし来ないでバックパスしてくれれば又やり直すだけ。

 

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最終的にCBはここまでボールを運びタッチライン際のWGにパスした瞬間の画像。

チェルシーにとっては思惑通り大外レーンで密集地帯でのマンマークの状況を作れた。

中央のCB、ウィークサイドのサイドCBとWBの3人は原則通り持ち場をキープ

ウィークサイドのボランチはボールが来てもCBをさらさない為に前のスペースを埋める。

 

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そして最後にWGにボールが渡り何も出来ずファールで終わったシーン。

WBはWGに前を向かせず、周辺の選手はマンマーク

WGは後ろでサポートをしているジンチェンコへのパスコースを狙っている。

ボールホルダーからは遠いが、インサイドレーンにいるアンカーのギュンドガンをヴェルナーは警戒している。

 

チェルシーは最終的には理想の形であるこの形に持って行った。

 

 

守備構造まとめ・思考の寄り道

このブログの最終段階に来ました。

まとめをしていきたいと思います。

 

ボールが中央・インサイドレーンにある時

チームとして5-2-3の守備ブロックの中への侵入を妨げる

3トップがポジションで攻撃のスタートとなるDFラインにいる選手の選択肢を主にパスコースを切ること、居ることで運ぶドリブルをけん制。

ボランチとサイドCBが(特ににボランチ)がブロックの中でボールを受けそうな選手をマーク又はパスコースを切ることでボールを受けることをけん制、させたとしてもバックパス以外をさせない。

                  ↓

守備ブロックの外の大外レーンへボールを誘導中・誘導後

WGに縦パスが入った時の準備段階

中への選択肢を制限し続けながら、WGにパスが入った時にボールを奪う為にマークの色を強くする(マーク対象との距離を縮める)

                  ↓

 縦パスがWGに入った時 

ボールを奪う又はバックパスをさせる

ボールホルダーに密着するほどのプレスを掛けて何もさせない、ボール周辺の選手にもボールを受けた時には同じように強度の強いプレスを掛けれるようにかなり近い距離を取る。

最終的にボールを奪う又は、バックパスを相手に選ばせる。

 

 

今回解説したシーン以外にも、3トップの間から侵入された時、WGに縦パスが入った後ダブルボランチと3トップの間を経由してサイドチェンジされた時の対応などなどデザインされているのですがこの記事では割愛。

実はボールの奪いどころは別の所にもあり、中央レーンやインサイドレーンから外への横パスをインターセプトするシーンがとても多い。

ここに関しても守備の再現性が高いので、計算の内に入っている。

 

トゥヘルの頭の中

この守備ブロックを戦略的な視点から見ると、3トップをカウンターの為に高い位置に残して置きながら、安全なサイドで攻撃させて奪えるような仕組みがある。

たとえ奪えなかったとしてもチャンスは作らせない。

なんとも完璧に見えてしまう守備ブロックである。

ボール保持率も高いので、実際にトゥヘル×チェルシー以降の失点はとてつもなく低いのも納得である

(2021/9/18現在)

 

ただどんな戦術にも弱点はある。

後半はグアルディオラが完全に攻略したとは言えないが解決の糸口を見つけた。

(後半の試合画像を使ってないのはその為。理解してもらう事を目的としているので、比較的上手く行っている前半の動画を使った)

各選手のタスク配分にバラつきがあるので、タスクを多く抱えてる選手やその周辺スペースをどう利用するかがカギとなってくるだろう。

 

みなさんご存じのチェルシーの代名詞のセットオフェンス。

この守備ブロックと前残りでボールを持ってない段階で優位に立ちさらにはオーガナイズされたカウンター。

半シーズンという時間で、沢山の武器を高レベルで仕上げたトゥヘルは現在間違いのなくトップオブトップの指導者。

 

自分が知っている限りでは、昨シーズンこの5-2-3を使ったのは恐らく、リーグ後半戦のシティ戦(CL決勝カードが決まった直後の試合)、CLマドリー戦 2nd legとCL決勝の3試合だけ。

(確認した試合は70%なので訂正があればチェルシーファンの方良ければコメントどうぞ)

今シーズンのチェルシーの試合をセットディフェンスのシーンだけ見たら、この守備戦術を今シーズンも使っていまいた。

つまり本格的に対策されるのは今シーズンから。

対戦相手がどのような対策を講じて、どのように適応していくかは今後も注目。

 

 

 

 

ペップポジショナルプレー VS クロップ4-3-3守備ブロックの復習 -これまでの対戦で起きた変化-

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こんにちは
ヨーロッパではコロナが猛威を再び猛威を振るっています。
スペインサッカー界には大きな影響を与えていて、育成年代を含め多くのカテゴリーが外で練習すら出来ないチームがほとんどとなっています。
ありがたいことに自分が所属しているチーム・リーグには影響がほとんど無く、練習から試合まで続けることが出来ています。
「ありがとう」を漢字で書くと、「有難う」と書くみたいで、意味は有る事自体が難しい。
つまり今あることは当たり前じゃないという意味があります。
まさにその言葉通りの状況です。
有難う
 
 
 
本題です
今シーズン初のManchester City vs Liverpoolがあるということで、今までのこの対戦の流れを復習しておきましょうという目的の記事です。
本当はもっと書きたいことあったんですが、文章にするに至らなかったので、コンパクトにしました。
自分に負けたのは少し悔しい。
 
とはいうものの、このカードで常にカギとなるプレー局面について触れた記事なので見て損はないかなと思うので是非目を通してみてください
 
この記事では、Manchester City目線でLiverpoolをこの2シーズンでどの様に適応していったかについて触れていきます。
 
 
 
 
 
分析対象試合と結果
この記事を書くにあたって分析した試合は18-19シーズンと19-20シーズンのリーグ戦4試合です
 
18-19前半戦(8節)  LIV 0 - 0 Man C 
18-19後半戦(21節)Man C 2 - 1 LIV 
19-20前半戦(12節)LIV 3 - 1 Man C
19-20後半戦(32節)Man C 4 - 0 LIV 
 
 
 
最初にざっくりと4試合を振り返る
 
1試合目
ショートパスを沢山使いながらじっくり相手ゴールに近づいて行くゲームプランで臨みました(特に前半)
この試合ではそもそもLiverpoolの3トップを超えた後にチームの問題点がありましたが、ゴール前に到達出来た時に単純なクロスしか手段がなく決定機を多く作る事は出来ませんでした。
 
 
2試合目
3トップを超えた後に、ボールサイドから前進してしまい、スペース・時間・優位性が無い状態で攻撃していた前回とは違い、サイドチェンジを使い前進するという修正を加えたペップ。
 
フィニッシュの問題は主に2つの解決策を用意
・サネのドリブルとフリーランでチャンネルに侵入して決定機作る個人の能力
・チームとして、ロングボールとカウンター優先度を上げることでスペースを得た状態で攻撃できる機会を増やす
 
前者は機能したといえるが、後者はどちらとも言えない印象。
つまり、メリットがデメリットを上回れなかった
 
 
3試合目
この試合ではロングボールを積極的に用いる姿勢を見せます。
前回はロングボールでどのように優位性を作るかが見えませんでしたが、この試合ではロングボールの受け手に対してのサポートが用意されていて前進に成功する場面も数多く見られました。
ショートパスでLiverpoolの守備の構造上空いているスペースを上手く使うことにも成功していましたが、前半立ち上がりの2得点が重くのしかかりました。
 
 
4試合目
配置とショートパスを使ってIHの攻略に成功し多くのチャンスを作れた試合。
ゲームコントロールも機能し、それが結果に表れた。
Manchester City vs Livepoolの対戦において大きな分岐点となった試合になると思われる。
 
 
 
 
 

ここ2シーズンでの変化 

 Man Cの攻撃の縦のスピード 
結論から言うとペップは「攻撃の縦への速さ」が勝利のカギだと理解します。
きっかけは18-19の前半戦で先ほど書いた通り、ショートパスを沢山使いながらじっくり相手ゴールに近づいて行くゲームプランで臨んだ結果、チャンスを作ることが出来なかったからです。
その試合以降から「縦に速い攻撃」をゲームプランの軸の一つとして取り入れるようになります。
 
とはいうものの、縦の速さというのはみなさんご存じの通り諸刃の剣にもなりうるもので。
それを象徴する面白いシーンがありました。
 
19-20の前半戦(3-0でMan Cが負けた試合)で立ち上がりからペップのチームとは思えない程の縦の速い攻撃をしていました。
ハーフェーラインを超えるのに3本程度のパスしかせず、ほとんどロングボールを使ってフィニッシュにたどり着いていました。
 
その結果Man Cは立ち上がりの時間帯だけでフィニッシュも、チャンスを作れる距離からのFKも得ました。
ですが前半12分でスコア2-0
そこからは途端にショートパスを選択し、ゲームをコントロールし始め、カウンターを受ける回数を減らす事に成功する。という出来事が象徴的でした。
つまり、得点したかったら速い攻撃が効果的だが、その分失点することを誰よりも分かっているペップが垣間見えた瞬間でした。
 
 
 
 LIV攻略のポイント IH 
LIVの守備の構造上空いているスペースがあります。
3センターの横です
WGとSBの間とも言えますがここでは「3センターの横」と呼びます。
 
ただこの配置はスタートポジションなので、ずっとこのスペースが空いてるわけではありません。
Liverpoolの強さの一つの要素は、このスペースでボールをここで受けた時に使わせない仕組みが存在することです。
ただ構造上人がいないのも事実です。
なのでここが攻略のカギになると考えるのは自然なことだと思います。
 
18-19前半戦から19-20の前半戦の3試合でペップがこのスペースを有効活用する為の攻略法としてピッチに表現したのはこの4つ
 
 

解決策

 

解決策1 IHを固定してWGへのパスコースを開ける

シーン1

 

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B・シルバが下がりながらボールを要求

ワイナルドュムがマークの対応

 

 

 

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コンパニーがサネにパス
B・シルバがいたことによって、ワイナルドュムがパスコースを切る役割に回れなかった
 

 

  

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サネにボールに渡り、フリーのSBに落とし前進を成功させる
 
 
 

シーン2

 

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ストーンズがハーフスペースにいるスターリングにパス

フェルナンジーニョがアンカーの位置にいることで、ミルナーはパスコースを切るにポジションを取れなかった

 

 

  

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LiverpoolのSBが食いつく。

スターリングはフェルナンジーニョに落とす

 

 

 

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フェルナンジーニョスターリングが空けたスペースに走っていたダニーロにパス
  

 

 

 

 
解決策2 レイオフ
 
シーン1
 

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ストーンズがボールを保持している 
 
 

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B・シルバがボールを受けに下がる

ここで肝になるのは、食いついているのはLiverpoolのIHミルナー

 

 

 

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B・シルバはSBのダニーロにパス
もし食いついたのがアンカーだったら、ダニーロにIHがしっかり対応出来ていただろう。
 
 
 
シーン2
 

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ラポルテがボールを保持しているシーン

 

 

 

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この試合ではアンカーでプレーをしているフェルナンジーニョがマークから離れる動きを入れながらワンタッチでメンディーへ

 

 

 

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フリーでボールを受けることに成功
3センターの真ん中(アンカー)のヘンダーソンがアンカーのフェルナンジーニョのマークの為に高い位置を取っていて、IHである他の2人はMan CのIHを見るために低い位置を取っている。
つまり、一時的にLiverpoolの陣形は4-2-3-1になっている。
 
 
 
解決策3 3IHを片側サイドにスライドさせてインサイドレーン(または中央レーン)からサイドチェンジ
 

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ストーンズがボールホルダー

 

 

 

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コンパニーにボールを渡し左SBにサイドチェンジのパス

 

  

 

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ラポルテが時間を得た状態でボールを受ける


 
シーン2

 

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Man Cの左SBがボールを保持

 

  

 

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フェルナンジーニョにボールを渡し、ロングパスがウォーカーに向かっている画像

ここで見逃せないのは、ウォーカーに対応しなければならないワイナルドゥムがこの時点でピッチの真ん中にいること(写真にギリギリ映っている選手)

 

 

 

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ウォーカーはフリーで受ける。
案の定対応に送れてしまうワイナルドゥム
 
 
 
 
 
そして19-20シーズンの後半戦でManchester CityがLiverpoolの守備構造を攻略し、4-0で勝利した試合で頻繁に見られた解決策
 
解決策4 ダブルボランチのポジショニングでLiverpoolのIHを引き出し、IHの背中に人を下ろしてフリーマンを作る 
 
シーン1
 

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エリックガルシアがボールホルダー

 

 

 

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CBの間に降りたギュンドガンにパス

勘のいい方はお気付かもしれませんが、Liverpoolの3センターが前に出てきています

 

  

 

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ギュンドガンが少し中に運び、ヘンダーソンの裏にいるWGのスターリングにパス

 

 

 

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膨大なスペースで受ける
Liverpoolの右SBはMan Cの左SBのメンディが高い位置を取れる位置にいるので、スターリングについていくは難しい判断
 
 

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最終的にこのプレーシチュエーション
DFラインの裏を狙ったが決定機には至らなかった
 
 
 
シーン2
  

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エデルソンがギュンドガンへパス

 

 

 

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ギュンドガン左足でロドリにパスしている瞬間

 

 

 

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ここでも、3センターの位置が前掛かりになっている

ギュンドガンのパスがズレて苦しい体勢になったが. . .

 

 

 

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Liverpoolのアンカー裏で待っていたスターリングにボールを渡す

 

 

 

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前を向いて先ほどと同じ様なシチュエーション

 
 
 この試合で変わったこと 
19-20シーズンの後半戦はこの対決において分岐点となると思います。
それくらい解決策4の「Liverpoolの3センターを引き出す戦術」はManchester Cityにとっては大きな前進でした。
なぜこの試合の戦い方がManchester Cityにとってそこまで重要だったかというと、今までは
 
・ボールを保持すれば、セットされた状態で攻めることとなり決定機を創ることに難しさが出る。
・ロングボールを使って縦に速い攻撃をすれば技術負荷が上がり、ボールを失う確率が上がり、カウンターを受けやすくなる。
 
だったのがこの戦い方で「ゲームをコントロール」しながら「縦に速い攻撃」がこのプレーで両立することに成功したからです。
この2つが試合どのように変わったのかをもう少し噛み砕いてみます
 
ゲームをコントロール
グラウンダーの足元へのパスという技術負荷の低いプレーで、ミスが少ないのでフィニッシュに到達する確率も高い。
さらに縦に速くても、ミスが少ない為間延びしている瞬間に失う回数は少ないので、配置をコンパクトな状態に保ち続けることが出来る
 
 
 
ショートパスでの縦に速い攻撃
変わった4つのポイントがあります
 
1. センターレーン(またはインサイドレーン)でIHを完全に超えた状態(位置的優位)でボールを受けている 
2. Liverpolの3トップラインを越えたらDFラインを狙っていた
(ここも重要ですが今回は触れない)
3. ボールホルダーが前を向いた状態で、DFラインと対面しながら攻撃することです。
4. 3センターを超えた後、3レーンを埋めて疑似的カウンターを創れるようになった。
 
 
実は3と4は少し前に書いたサッスオーロの記事で書いたこと同じ意図を持っています。
 
 
 
 
 
知っている方もいるとは思うんですが、この戦術は採用しているチームが昨シーズンから増えています。
(余談ですが記憶が正しければモウリーニョレアルマドリードのカウンターは3レーンを埋めるルールがあったように思います)
 
今になって、このプレー原則がセットオフェンスの一部分に採用されたといったところでしょうか。
この戦術も欧州サッカーのスタンダードになるのは、あと数年だと思います
 
 
 
 
 

まとめ

今日行われるManchester City vs Liverpoolの要点3つ
・「攻撃の縦の速さ」と「ゲームコントロール
・LiverpoolのIHの攻略がカギ
・Liverpoolの高いDFラインを狙う
 
時間の関係でここまでです!
今回の対戦ではどのような変化を見ることが出来るでしょうか
もしこの記事のことを頭の片隅に入れておいていただけたら幸いです。
 
 
最後まで読んでいただいた方有難うございました!
 
 

 

 

「ミクロサイクル」 -自分が監督としてスペインのリーグ戦で1週間をどの様にプランニングしているか-

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こんにちは

今回は自分が監督としてバルセロナのリーグ戦でどの様に1週間をプランニングしているかについて書いてみます。
 
メソッドについて書くのは初めての割にはかなりのボリュームです。
スペインで3チーム監督として持った上で試行錯誤しながら出来た(今尚進行中)トレーニングメソッドの「プランニング」の一部分です。
 
サッカーに関してはやや完璧主義なので、自分の納得した仕事をするために必要な手間を掛けるには、時間が掛かりすぎて終わらなくなってしまうので、メソッド化をして効率を上げています。
メソッド化をしている人はみんな好きだからしているというよりは、自分の様なタイプ、又はそうせざるを得ない環境に置かれてる人が多いんじゃないかなと思っています。
 
少し前に日本で出版された話題の2冊の本(日本に帰った際に読もうと思っています)のおかげでミクロ、メソ、マクロサイクルの事はご存知の方もいるのではないでしょうか。
もし自分が、サッカー指導者として成長するには何をすればいいですか?と聞かれたら
「取り敢えずミクロサイクルを毎週本気でプランニング」すること。と答えます。
自分のミクロサイクルの定義 : 試合から試合(基本的には1週間)※
 
個人的にはそれくらい重要だと考えています。
当然メソサイクル、マクロサイクルもしっかり計画しなければ、ミクロサイクルが部分最適になってしまうので、重要じゃないというわけではないです。
ただ基本的にシーズンはミクロサイクルとの格闘で、1週間1週間その時のベストを見つける為に、微調整と適応の繰り返しだと思ってます。
なぜなら沢山の要素(結果、チームの成長度、人間関係の問題etc...)に影響を受けるので、1ヶ月のプランを細かく詳細に立てても、上手くいかないのが相場です。
 
ということで今回はそんなシーズンの鍵となるミクロサイクルのプランニングにフォーカスしていきます。
 
ちなみに自分がミクロ、メソ、マクロとの向き合い方で大切にしているのは、
「メソサイクルを頭の片隅に入れながらミクロサイクルを毎週本気で突き詰める」
 
 
 
一応ここに自分が1シーズンでどの様にピリオドを分けているか書いておきます。
ミクロの定義が分かればこの記事は読めるので飛ばしても構いません。
自分の定義(分け方)なので、教科書(一般的な認識)とは少し違います。
シーズンを4つの単位で分けています。
 
シーズン
言葉通り1シーズンこれが一番大きな単位です。
プレシーズンも含まれるので、だいたい9月から6月の9ヶ月間です
 
マクロ
ほぼ半シーズンがマクロ。
スペインは年末年始に2,3週間の休みがあるので、シーズン開始から冬休みの9月~12月末までと、再開後の新年からシーズン終了の1月~6月までの2つに分かれます。
ここに関してはあまり強く意識しなくても、マクロの段階では目標が抽象的なので1度しっかり計画したら時々思い出す程度で問題ないと思っています
(いろんな要素をしっかり考慮した上で抽象的な目標を立てることは必要)
数ヶ月単位の予定を事細かく決めても予定通り行かないので(これは日常生活でも、普通の仕事でも同じですよね)
 
メソ
期間は少し流動的。
試合のカレンダーによります
基本的に2週間~1か月
例:
・2-3-1の相手と3連戦の3週間
・上位陣との試合が多くあるこの5週間
・格下との3連戦の3週間
 
ミクロ
1週間
厳密に言うと試合から試合
試合が無い週もあるので2~3週間の場合も時々ある
 
 
 
 
 
 自分の指導環境(前提条件) 
前提条件となる環境を簡単にお話します。
 
カタルーニャ州リーグ戦のフォーマット
リーグ戦についてですが、カタルーニャ州ではカテゴリーやディビジョンによって多少の差はあります。
育成年代(5〜19歳)は8月から9月まで1カ月間プレシーズンがあり、9月からリーグ戦が始まり、5月いっぱいで終了。
 
1リーグ16チーム計30試合で構成されていて、9月から5月いっぱいまで基本的には毎週リーグ戦があります。
厳密には大型連休や祝日で公式戦がない週もありますが、8ヶ月間で公式戦がない週は5回程度。
公式戦がない週は、大抵の場合ミニトーナメントに参加するのが一般的です。
 
 
自分のチームの環境(10-11歳の年代・7人制サッカー)
練習時間
1週間で平日に1時間15分の練習が3回( 計3時間45分 )と土日どちらかにリーグの公式戦を1試合です。
 
練習スペース
週に1回7人制のグラウンドの半分、週2回11人制のグラウンド8分の1。
 
 
自分はプレーモデルを軸にシーズンを進めていきます。
プレーモデルが浸透すれば良い成績が出ると考えていて、実際に今まで浸透するまでと、浸透してからの成績に誰が見ても分かるような差があるので、尚更信じています。
なのでいろんな局面のプレーモデル(守備ブロック、ビルドアップ、前プレなど)を浸透させていきながら自分達の望む結果を求めていきます。
 
 
 
 メインテーマ(プランニング方法) 
では本題のプランニングの内容に入っていきます。
プランニングを5つのフェーズに分けます。
1.  対戦相手分析
2.  ゲームプランの設計
3.  1週間で練習する技術・戦術コンセプトをリストアップ
4.  週3の練習でどの曜日にどれを練習するか
5.  練習作成
 
 
1は前の週の土日には終わっています。
つまり今日が週末で試合当日だとしたら、その時点で来週の対戦相手の分析は完了済み。
もう1つ先又は2つ先の対戦相手の試合も1度は目に通していることもよくあります。
(メソサイクルを設計するときに大事な情報になる)
 
2も同じく試合当日には来週のゲームプランの大枠は決まっていて詳細を詰めて可視化を土日で終わらせます。
 
3.4は基本的には土日に終わらせて、出来なければ週初めの練習前には終わらせます。
5の練習作成は練習当日です。
 
では1つ1つ説明していきます。
 
 
1. 対戦相手分析
毎週対戦相手の試合2~4試合撮影しておきます(アシスタントコーチの協力)
ここで特に重要視していることは
・相手がどのようにプレーするか(配置、戦術的意図)
・相手の得意・不得意な局面を知る
 
先程も言いましたが、この時点で分析しているのは今週の対戦相手ではなく来週又は再来週の対戦相手です。
先の対戦相手を分析しておくメリットは、時間の制限で急ぐ必要がなくなるのも当然ですが、他の大きなメリットは、先の対戦相手を見ておくことで計画的にミクロサイクルを立てられます。
 
もし分析が週の真ん中に終わったとしたら、対戦相手のことを知らない状態で1回の練習を迎かえることになります。
分析の結果、今週練習することが分かったけどもう時間がない!もしくはこの戦術今週使うかもしれないから、選手達に伝えておきたいけど時間がない!
別の例で言うと、分析の結果今週は守備に時間掛けるべきなのに、2セッションを攻撃に費やしたから一回しか守備のチーム戦術練習できない!
 
自分はこれが大っっっ嫌いなので、分析結果に基づいて今週自分達は何を練習するかをしっかり計画立ててから1週間に入ります。
 
料理で言うとレシピと作る手順を始める前に確認しておかなかったことによって、メインと前菜同時進行せず1つ出来上がる直前にもう一つ作り始める羽目に。
その結果時間が必要以上に掛かってしまうあれです。
料理に時間制限がありませんが、試合は開始時間が決まっているので致命的。
 
 
 
2. ゲームプラン
今週の相手の特徴が分かったので、自分達のプレーモデルに基づいてゲームプランを立てます。

ゲームプランを立てる上でのポイント3つ

1. 試合の軸となるプレー局面
まずメインとなるゲーム局面が何処になるかを1,2か所見極めそこにフォーカスします。
例えば、相手がビルドアップの局面でショートパスで前進を試みるチームだとしましょう。
もし自分達が前からプレスをかけて、相手のやりたい事を阻み、試合を優位に進める能力が力関係上あると思えば、そこを一つのメインとなるプレー局面に設定します。 
 
2. 自分達のプレーモデル
自分たちのプレーモデルの浸透具合も一つの大きな決定要因です。
自分の例を上げます。
このプレー局面で相手がこの配置(7人制なので3-2-1や2-3-1など)の時は自分たちはこの配置。
ビルドアップはこの原則でこういった狙い、というビルドアップの局面のプレーモデルがいくつかあります。
 
先ほども言いましたが、自分のプレーモデルが習得できれば成績に反映するので、それをできるだけ早く習得をしたいというのが頭の中にあります。
なので、試合である程度優位性が生み出せるレベルに達していれば、完成していなくてもそこをゲームプランのメイン部分に組み込み、試合で実践して浸透度を高めます
 (試合は最高の練習)
 
例えばまだ完成してないビルドアップを使わず、他の方法でプレーすれば少なくても3点差で勝てたとします。
反対にそのビルドアップを使えば、ギリギリだけど勝てるだろうと計算した場合、未完成のビルドアップを採用することも多いです。
つまり、この1試合だけの事を考えれば最高の選択ではないかもしれませんが、シーズンというスパンで見た時には、チームにとってより良い選択を選ぶようにしています。
(この様な選択肢を与えてくれるのがプランニングの良い所の一つ)
 
3. プランB
そしてメインもあれば、プランBも用意します。
計画通り行かないことも当然あるので、しっかり練習できなくても試合を優位に進めるストックは用意しておきます。
シーズン序盤は引き出しが多くないのでほとんど用意できませんが、シーズン終盤に入ると練習をしなくても実行できる(もう習得しているので)手段が多くなります。
これによって、駆け引きが簡単になり各プレー局面(プレーモデル)の完成度も高いのでそれが結果現れるというロジックです。
 
なのでシーズン終盤は後出しジャンケン状態になります(相手がこうするならこっちはこうするの繰り返し)
 
 
 
3. 1週間で練習テーマをリストアップ
       
 4. どの曜日にどれを練習するか
 
この2つの過程はほぼ同時並行です 
試合で自分達がどの様に戦うかが決まったので、それを実現するために何を練習するべきかを可視化する作業です。
試合でゲームプランを実行するために必要な、コンセプト(技術と個人戦術、グループ戦術、チーム戦術)を分解します。
その中で、優先順位つけて今週練習するコンセプトだけを抽出(チーム戦術を因数分解したら、1週間で収まる量ではない)
そして、1時間15分×3回の1週間の中でどの曜日にどれを練習するかを大枠決めます(練習するスペース、選手の人数は曜日によって多少違うので)
 

どのコンセプトを抽出するかの考慮する3つの要素

1. 今の自分たちが習得しないといけないもの
例えば、ゾーンディフェンス(僕の解釈ではゾーン色の強い守備ブロックのこと。詳しくは過去のnote記事をどうぞ)を習得し始める場合、スペースを埋める、スペースを守るという概念からスタートします
(今僕が持ってるチームはカタルーニャ州小学生高学年代の3部なのでこのレベルだとほとんどの選手にその概念がない)
 
2. 過去の試合で見つかった、プレーモデル習得において足りないコンセプト
同じゾーンディフェンスで例を挙げると、練習したけどスライドを理解出来ていない選手又は重要性に気付いてない場合、スライドをしないと上手くいかない練習を作りそれを通していつ、なぜ、どのようにを説明してそして試合を実践してまた改善点を見つけての繰り返しです。
 
3. 今週末の試合に勝つ為の戦術(自分達のプレーモデルではないもの)
シーズン序盤で、自分達がプレーモデルを実行出来るほどの完成度を持っていない時や、相手が明らかな長所・欠点を持っている場合、プレーモデルには組み込まれていない戦術を使うこともあります。
ここで大事なのはその戦術の再現が難しくないかを見極めること。
難しすぎる場合は1週間では習得できないので
 
 
練習作成
練習作成は練習当日に用意します。
といってもやることは前の過程でほとんど決まってるので、それに伴い幾つかの練習メニューも決まっています。
なので1,2個の練習を用意と微調整です。
 
当日に練習作成する理由は以下の2つの理由
・選手達の欠席で、練習人数も急遽変更になることもある
・前回のセッションの質を見て、やる予定だった練習をやらない又は、1度だけやる予定だったものをもう一度やるなどのミクロサイクルの調整 
 
意識するのはセッション全体のバランス
複雑性が高い練習ばかりにならないことや、新しいチーム戦術を最後やる場合はかなり脳に負荷がかかります。
なので、その前の練習は複雑性の低いトレーニングにします
(ルールが少ない、ワンプレーの参加人数が少なく待ち時間があるetc...)
他には、比較的プレーを止めて説明することが多い練習がある場合、他の練習では止まらない、動きの多い練習にするなどなど(選手は何も考えずにボールを蹴ることに純粋な楽しみを感じていると思うので)
 
 
 
 思考の寄り道 
この記事を読んでいて10-11歳でこんなに相手踏まえてチームでプレーするの?戦術そんなに練習するの?と感じた方もいるかもしれません。
 
自分も分かっているつもりです。
育成の事をだけを考えた場合、別のやり方の方がいいかもしれません。
 
ただ1つ言えるのは、自分も1人の指導者です
つまり、クラブという組織の中で評価をされないといけません
 
現状スペインの多くのクラブ(自分の所属クラブも含め)で監督を評価する最大の要素は結果です。
多くの指導者の方が思っている事だと思いますが、サッカー指導者には沢山の評価の要素がある中で結果はたった1つの要素に過ぎません。
ただ結果が大きな力を持っているのは現実です。
 
自分にはプロの世界で活躍するという夢があります。
正直自分は自分の夢やエゴをすべて捨てて、選手の為に働けるような仏ではありません。
もちろん、子供たちに真摯に向き合いますし。
純粋にボールを蹴りたいという気持ちを叶えようと試みます。
 
そうやって、この記事を読んでくれている中にもいる指導者の皆さんと同じ様に、自分と選手達や保護者又はクラブの理想を理解しながら、折り合いをつけてやっていると言う事を理解した上でこの記事を参考にして頂けたら幸いです。
 
 
もし良ければいいねとリツイートお願いします!
 

 

サッスオーロのアタッキングサードまでの設計図とサッカーの近未来について少し  

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 序章・目次 
久しぶりのブログです
前回のヘタフェ記事に続き設計図解説シリーズです
 
前回の記事はこちら

mimanera.hatenadiary.jp

 
 
今回取り上げるのはサッスオーロ
自分の記憶が正しければ、昨シーズンセリエAでポジショナルプレーを実現するチームとして一時期話題になりました。
 
今シーズンも同じ監督の下、引き続き同じ道を歩んでいます。
今回このチームを選んだ理由は秘密ですが、ざっくり言うと個人的に今興味のあるプレーに取り組んでいるので思い追ってみた次第です。
 
話は少しそれますが、一つのチームを立て続けに5試合前後見るのは勉強になるということを、ここ最近再確認させられています。
最初の3試合でチームの構造が大体見えてくるので、それ以降は相手によってどう変えているか、どの部分は変えていないのか、更には相手がこのチームを分析した結果どのようにプレーするかが良く見えてきます。
 
人それぞれ学習のフェーズは違います。
いろいろなチームを見た方が得るものが多い時期もありますし、見たい戦術を絞ってみるのも勉強になりますが、もし興味があれば「1チームを続けて5試合見る」を試してみてください。
 
 
ではそろそろ本題へ
今回も分析対象試合は5試合です。
セリエAの試合が再開する前に分析自体は終えたので、ロックダウン前の試合限定となっています。
 
 
 
  
 
 セットオフェンスの基本的な配置と攻撃の狙い 
基本的な配置は4-2-1-3
 

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相手がゴールキックからプレッシャーを掛けてくる時
 
 
 

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相手がミドルブロックを構えている時
  
 
 

サッスオーロのボール保持の狙い

彼ら創りたい理想のプレーシチュエーションはこれ
(見ていただきたいシーンからスタートするのでお見逃しなく)
 
 
 
 
 
 
 

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このシチュエーションをDF目線で見ると:
・CBがプレスに出て、後ろがカバーリングしなければ一番危険なCBの背中が開く
・CBがプレスに出て、後ろがカバーリングすればハーフスペースにいる選手に時間が与えられられる
(僅かな時間だが、カバーリングが間に合わない+場所が場所なので抜かれたら致命的な状況)
 
なので、相手はセオリーであるペナルティエリアまで後退を選択する
(ディレイで守備の数的優位を作る時間を稼ぐ)
この状況を創れば最悪シュート又はCKを獲得まで辿り着くことが出来ます。
 
ここから先の仕組みも厳密にいえばあるのですが、個人の判断もかなり影響しているので割愛します。
 
先ほど言いましたが、この形はボール保持時の理想です
つまりセットオフェンスでも、カウンターでもこの形を作ることを積極的に狙います。
セットオフェンスの場合は、相手が前プレを掛けてる時に比較的多くこのシュチュエーションが発生します。
守備ブロック組んでる時は基本中は開かないので、発生頻度は落ちます。
 
このチームの特徴はカウンターでもセットオフェンスでも理想の形が一緒という事です。
実際に、練習やミーティングでデルビ監督が「我々にとって、カウンターとセットオフェンスは分かれていない!ボール保持だ!」と言っているかは分かりませんが、目的地が同じなのは間違い無いでしょう。
このような、DFラインと対面出来る状況を創れそうな状況になったら文字通り「スイッチ」が入り、チーム全体が自分のタスクを連続して無駄のない動きで実行していきます
 
 
 
 
 
 第2の選択肢 
当然相手は研究してきます。
特にセットディフェンスでは対策を準備してくるので、相手が前からプレッシャーを掛けてきたとき又はミドルブロックで中を閉められた場合、サイドでの鍛えられたグループ戦術で前進を試みます。
前進の手段は以下の通り
 
 
相手SB又はWBの裏を取る
オーバーラップで2c1、SBを引き付けWGをフリーに
 

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SBがWGにパス

 

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WGが受け、相手WBが食いつく

それを見たSBがパスアンドゴーで裏のスペース使いに行く

 

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瞬間的2対1が出来たので、WGはSBにパス

もう一度2対1が出来る

 

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ボールホルダーに食いついたCB
トップ下も見事なポジションの微調整でパスコースを作りフリーでボールを受けることに成功
 
このシーンはサイドから前進して最終的に理想の形を創りました。
 
 
 

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相手が誘導してボールを奪い来ている場面

 

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SBがボールを受け、画面にはまだ映っていないWGに縦パス

 

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WGがひし形を作る為にサイドに流れてきたボランチへ落とす

 

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フリーでボールを受けたボランチはサイドチェンジを選択

 

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ウィークサイドから前進を成功させる

 


ロングボール+落とし

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相手がゴールキックからかなり強いプレスを掛けてくる場面

  

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ボールを受けたSBはCFにロングボールを当てる

 

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WGが落としを受ける為にサポート

 

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落としを受けたWGは中央でボールを要求しているトップ下にパスをし、サイドチェンジに成功する

 

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最終的にはこんなシーン

 
  
最終的に理想の形に近い状況(DFラインをピン止めし、その前のスペースがMFによって完全にカバー出来ていない状況)を創ります
 
サイドで三角形やひし形を作り、そこから相手の配置に合わせて適切な選択肢をチームとして選ぶ。
それによって、フリーマンを作りプレースピードを落とさず決定機又はフィニッシュに持っていく、またはセットオフェンスに移行するかという判断をします。
 
実際に自分が見た5試合では、相手がペナルティエリア前に守備ブロックを構えた時以外はコンスタントにこの形を格下、各上相手に関わらず再現していました。
  
 
 
 
 
 思考の寄り道 
果てしない所まで行ってしまいそうなのでここまで。
 
ポジショナルプレーの一般化はとてつもない速さで進んでいます。
今のゾーンディフェンスのように、どのチームにもある程度の完成度のポジショナルプレーが常識になる未来が来るのは確実といっても過言ではないでしょう。
 
どんどんオーガナイズが進んでいくサッカーはどこまで行くのでしょうか?
個人的には少し先の未来のサッカーは、複数のチーム戦術を使いこなすチームにあふれると思っています。
例えば、引いて守れて、ボールもある程度の完成度のポジショナルプレーも持ち合わせ、色んな配置に対応出来る前プレの引き出しの多さ。
そしてさらに、オーガナイズされたカウンター、ファー詰め、クロスに対しての守備
などなど、いくつもの欧州一部のチーム(中堅チーム含め)がここ数シーズン取り入れ始めているこれらの戦術のいくつかを持ち合わせてるそんなチーム。
 
ポジショナルプレーやアトレティコマドリードのような細部の仕組みまで計算された守備ブロックがペップやシメオネの専売特許だった10年前に比べると、だいぶ一般化が進んだのを見ると、そんな未来を想像せざるを得ません。
 
そうなると、トレーニングはどうなるでしょうか?
ストリートサッカーの回帰も話されていますが、もし先ほどの未来が待っているなら、選手へ求められる戦術レベルの要求の高さは止められないでしょう。
 
ただ指導者個々のトレーニングのレベルも、情報のグローバル化で間違いなく上がっています。
セッションの内容の効率化がさらに上がっていけば、戦術のレベルを上げつつストリートサッカーの要素も取り入れられるかもしれません。
育成のリレーをどれだけ計画的に出来るか問題もありますが。
 
こう見ると、どんだけレベル上がってるんだよ!と思うかもしれませんが、
そんな時代の真っただ中にいると自分は思っています。
 
空想のお話しはここまで。
良かったらTwitterでの拡散お願いします。
 
 

 

今シーズン躍進のヘタフェを分析 戦術的意図

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バルセロナでのロックダウン生活も1か月経ちました
普段、指導者として過ごしていると、複数ある自分のチームと学校や仕事に忙しくシーズン中は多くの時間を取ることが出来ません
なので、今だからこそ出来る事に取り組めているので、自分からすると良い時間になっている側面もあります。
 
当然、社会的に見れば無いに越したことはないんですが、このようなアクシデントも人生の中では起こりうるので、皆さんも今だからこそ出来ることに取り組んでみたらいかがでしょうか。
 
 
 
 
ではサッカーの話題に入ります
自分が、普段できないことの中に欧州サッカーのトップレベルを見ることもその内の一つです。
どのチームを見ようかなと思ったときにここ数シーズン、特に今シーズン成績の観点からヘタフェは外せませんでした
 
今シーズンヘタフェの成績
リーガ
・現在5位
・あと勝ち点1でCL圏内
・3位のセビージャとの勝ち点差1
ELではCLのGL3位枠のアヤックスを倒しベスト16
 
今シーズンのチーム資金でいえばバルサの10分の1
スペイン1部リーグ全チーム別の給与額でみると20チーム13位
 
スペインで今シーズン要注目チームに上がってるのも当然なチーム、それがヘタフェです。
 
 
 
先に言っておきます
ヘタフェはよく言われる(少なくともスペインでは)ラフプレー、プレーイングタイムを減らす、ハードワークだけのチームではありません
もちろんデータでは上記のような数字が出ていますが、注目すべきはポイントはその戦術面にあります。
しかし、戦術面について語られてるコンテンツを見ないので今回は戦術面を解説していきたいと思います。
(今回記事を書くにあたって独断で選んだ5試合を1.5倍速で分析を進めました)
 
 
まずは、ヘタフェのチーム設計の大枠のチーム設計について触れて、その後この記事のメインのとなる2局面をフォーカスします
 
 
 
 

設計の大枠

守備面

一番特徴的で、チームでも練習を重ねている形跡が見えるのは、自陣に構える守備ブロック。
他には4-3-1-2で前からもプレスを掛け、ネガトラはかなり積極的な姿勢を見せます。
 
どの局面でもボールホルダーに強いプレスを掛ける・ボールを奪う意識が高いのは1つの特徴です。
長時間自陣に構えることを好むなど特別どこかの局面に偏ることはないです
守備に関しては後ほど話すのでこの辺で。
 

攻撃面

攻撃では定位置攻撃でもカウンターでも縦に早い攻撃を狙います。
例えば定位置攻撃の場合、ロングボールをFWに当ててセカンドボールを拾いそこからフィニッシュに向かう。
ボールを保持する場合、サイドから無理やり前進しフィニッシュの局面までもっていく傾向があります。
無理やりという言葉を戦術的にかみ砕くと、スペースと時間や3つの優位性がない状態ということです。
どちらにせよ短時間でボールを失いやすい攻め方ですが、ヘタフェにとって相手ゴール前(最後の3分の1)にボールを運ぶことが出来れば、攻撃の目的を半分達成したようなものです。
理由はこの後解説します。
 
 
5試合観た上で、試合展開は4つのサイクル(定位置攻撃・守備、トランジション攻撃・守備)すべてが速いテンポで現れます
強いて言うならボールを持っていない局面の方がやや長いと言えます(攻撃で縦に早いので必然的)
 
試合の中で大半の時間をゴール前で引きこもって相手を迎え撃つのような、1局面が試合の多くの時間を占めるようなことは基本的にはありません
当然相手によっては多少差はあります(それはどのチームでもそうですが)
例えばバルサ戦では自陣に構えるシーンは通常より増え、バレンシア戦では相手陣でボールを持つ時間がいつもより長くなりましたが基本的には上述した通りです。
 
ここからがこの記事のメイン
特徴的だった自陣での守備ブロックと、フィニッシュからの攻守の切り替えの2つの局面を解説します
 
 
 

守備ブロックの設計

 

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配置は4-4-2
特徴がMF4枚の間隔が通常より広いです
DFラインは逆に少し間隔が狭い間隔を保ち、中をケアする意識が高く
そしてこの2ライン間はかなり狭いです 
 
 

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 SHとボランチの間に距離がある(両サイド)

 

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赤丸がボールホルダーと1st DFとなるヘタフェのボランチ
その後ろにいる3人のMF同士の間隔はかなり広い
(意図的にカバーリングのポジションをとっていない)
 
 
 
例えば通常のゾーンディフェンスでいえば、1人がボールホルダーにプレスを掛けたら、他の選手はそれに応じて閉めて中へのパスコースを遮断します。
ですがこのチームのMFラインは意図的に中を閉める為に十分な距離をスライドしない、1st DFの斜め後ろのポジション(カバーリングのポジション)を取りません。
このことから、このチームはゾーンディフェンスで守っているとは言えないでしょう(ゾーンディフェンスというにはゾーンの意識が弱い)
 
なので中のパスコースは存在するので頻繁にライン間へパスが通ります。
もしアトレティコマドリードだったらそれを許した選手をシメオネが次の試合でベンチ外に送るでしょう。
 
 
 
ではヘタフェではライン間の選手がボールを受けた場合、どの様に対応するのかというとDFラインの出番です。
DFラインの選手がパスの移動中にボールホルダーへプレスを掛けます

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このシーンではSBがライン間の選手に対応(このプレーは1つ前の写真と同じシーン)
 
 
 

なぜMFラインが横をコンパクトにしない且つカバーリングをしないか?

ボールホルダーへ早くプレスに行ける
カバーリングのポジションを取ると、1st DFより後ろ(ボールホルダーにプレスを掛けている選手より自陣ゴール側)に立つ事になるため、今ボールを持っている相手選手がパスをした場合カバーリングのポジションをとっていた選手はそのパスを受けた選手から少し遠い位置にいることになる。
それによってその選手に強いプレスをかけれない。
 
 
これによって何が起こるか
ボールホルダーの時間を奪うもそうですが自分が思う主な理由は、ボールホルダーをなるべく遠い位置でプレーさせることが出来る
もしディフェンダーが低い位置にいればパスの受け手は、目指すゴールにより近いポジションを取れますが、ディフェンダーがより高い位置にいれば、ボールを受けるために下がります(インターセプトを避ける、ボールを持ったときの余裕を得るため)
もしボールホルダーが離れなければ、より近い距離までプレスを掛けることが出来るので、前への選択肢を削ることが出来るでしょう
 
 
なぜヘタフェは遠い位置でボールを持たせたいのか
それはライン間への縦パスに対応する時間が出来るから
ボールホルダーが遠くでボールを持ってくれれば、ライン間の選手とパスの出し手の距離が遠くなり、そうすると必然的にパスの到達時間が長くなります。
よって、縦パスが入ってもライン間を担当する4バックの選手にボールホルダーへプレスをかける時間が増えるからです
 
 
 
 もう1つのMFラインが横をコンパクトにしない理由は、サイドチェンジにも対応できるから
ゾーンディフェンスの原則は中を閉めて外を捨てる事です。いわゆる集中と選択ですね。
なので攻撃側からすればサイドチェンジをすれば時間を手に入れることがセオリーです。
ですが先ほど言った通りヘタフェのMFラインはスライドをしません
これはサイドチェンジしても逆SHが対応できる位置にいるということもできます。
なので攻撃側からすると、ゾーンディフェンスの相手程サイドチェンジでメリットを得れないということになります。
 
 
 
 
ここで少しまとめます
・ヘタフェは4-4-2でゾーンディフェンスではない
・MFラインの間隔は広く、DFラインの間隔は狭い(2ラインの間はかなりコンパクト)
・MFラインの選手同士の間隔が広い(スライドしないカバーリングをしない)理由はMFラインの前にいるボールホルダーに強いプレスをかけることとサイドチェンジにも対応すること
・DFラインはライン間でボールを受ける選手の対応
・これによって、サイドを使っても中を使ってもパスの受け手に時間を与えられない。
 
 
 
このチームの分析が難しいところは、ゾーンディフェンス=いい守備という固定概念があると、よくある戦術的に鍛えられてない、人の意識が強いチームに見えてしまうところです。
中を閉めるのはあくまで手段であり、目的ではない。
どんな戦術にも良いところと悪いところがあるということを教えてくれます。
 
 
 

定位置攻撃でのフィニッシュ - 攻→守への切り替え

 

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定位置攻撃(サイドアタック)

定位置攻撃では、フィニッシュはクロスが主な形。
特徴は上の図のようにアタッキングサードに近づくと、全ての選手が5レーン理論で言うところの逆サイドのハーフスペースまでに全員いる(逆の大外レーンには誰もいない)
これは、クロスの為にボックス内の人数とサイド攻撃に人数を割くのが主な攻撃での意図です
 
もちろんそれと引き換えに自分たちの攻撃ではスペースがない状況でフィニッシュをする必要があります(サイドチェンジはあまりしない)
それでも1~3人ボールサイドの大外レーンに人数を掛けて、フィジカルやスピ―ドでペナルティエリアの横まで無理やり持っていき、3人前後の人を用意いているペナルティエリアにクロスを上げるというのが仕組みです。
 
スペースのない状況を自分達で作っているのでクロスが雑になることもありますし、サイドでボールを失うこともあります。
しかし、ヘタフェはそれも計算に入れています。
 
 

 攻→守の切り替え

クロスやサイド攻撃などで、最後の3分の1でボールを失った瞬間ボールに奪う守備をします。
ここがヘタフェにとっての肝です
ここではチームとしてかなりアグレッシブにボールを奪いに行きます
バルサの7秒ルールをイメージしてもらって構いません、だだバルサより人は密集しているのでかなりアグレッシブなのが分かると思います。
 
ポイントはボールを失った瞬間すでにチームとして相手にプレスを掛ける人数はそろっています
なぜならついさっき話したようにチーム全体をコンパクトにしながら攻撃していたからです
 
 

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赤丸の選手たちはサイドでボールを失ってもボール周辺の守備者の役割を持ち

クロスが上がったらポジションを移しセカンドボール要員にもなれる

 

 

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クロスからフィニッシュのシーン

赤丸の2人の選手はボールを失った瞬間すぐにプレスを掛けれるポジションをとっている

 

 

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クロスボールを競り合ってる場面
この後、ボールを失った瞬間映っている選手全員でボールを取りに行く 
 
 
 
意外かもしれませんが、ヘタフェは攻守に繋がっている配置を設計しているチームです。
 
そこですぐ奪い、間髪入れず攻撃を再開し、ゴールに向かってフィニッシュに向かいます(ここでも縦に早い攻撃)
7秒以内で奪い返す→早くフィニッシュする→7秒以内で奪い返す→早くフィニッシュする。
この繰り返しがヘタフェの理想です
 
これによってショートカウンター(相手の守備陣形が崩れている状態)での攻撃の回数を増やして、勝つために必要なゴールをする確率を上げているのがヘタフェの戦略的な意図です
このネガティブトランジションがあるからヘタフェが最後の3分の1にボールを運べば目的の半分を達成したようなものと表現した理由です。
 
 
 
 
 

まとめ・思考の寄り道

ヘタフェは設計の中でリスク管理を重要視しているなと感じました。

攻撃面では、最後の3分の1まではロングボールかショートパスを使ってもサイドから前進して、奪われた時に危険度の高い場所からを極力避ける。
万が一失っても、致命傷は受けないコンパクトな状態で攻める
守備面では4バックの4枚は簡単に中央から動かさない設計。
 
ただリスクを管理に重きを置いた設計の中でリスクを冒しているとも思いました
というのは、コンパクトに守備をしながらも奪ったら人数を掛けた高い位置から奪いに行く守備。
自陣での守備ブロックでもスペースを埋める守備ではなくボールホルダーに強度の高いプレス(あわよくばボールを奪う)
 
 
個人的にヘタフェが躍進している要素として挙げるとしたら。
 
1.変わった守備の設計なので効果的な対抗策を再現性持って戦えるチームがまだ少ない。 
2.プレーモデルがはっきりしていて選手達が高いレベル(継続性があり速く)で実行出来ている
その代わり戦術の幅があるかどうかは監督の腕の見せ所(今後表面化してくる)
個人的には引き出しは多くないように見える。
 
もっと深掘りしたいところですが、今回はヘタフェの戦略的な部分にフォーカスしたものなので今回はここまで。
一つの局面に絞ってもっと細かい部分や仕組み(戦術的な部分)を分析する記事なんかも別のチームでやっていければなと考えてます。
 
 
リバプールの守り方もそうですが、中を閉めて外でプレーさせるという定石も見直されているなと。
そんなチームをここ最近見るようになりました。
ただ中を閉めるというセオリーが廃れることはないですが
大事なのは意図と戦術が繋がっているか
 
 
 
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